研究解説・詳細解説

OpenAIが80万件の業務関連メッセージを分析:人々がAIにやらせている仕事の大半は、本来の職務ではない

同じデータから43.5%と65%〜82%という2つの結論が導き出される。その違いは「母数の切り取り方」だけだ。
1分でわかる要点
  • OpenAI経済研究チームが仕事関連のChatGPTメッセージ80万件超を分析。AIで処理する業務のうち、本来の職務記述書に含まれないものがどのくらいあるかを調査した。
  • 仕事メッセージ100件中、約17件が「他人の職務」の作業だった。広く引用されている「43.5%」は、全仕事の61.5%を占める汎用業務(メール作成、会議調整など)を母数から除外し、残りの非汎用メッセージのみを100%として再計算した数値である。
  • この基準(非汎用メッセージ)で見ると、8職種中5職種でタスククロスオーバーが過半数を占める。カスタマーサポート77%、デザイン75%、人事69%、最も低いエンジニアリングでも28%となった。
  • 最も極端なのはデザイン職だ。メッセージの35.2%で他人の職務を処理しているのに対し、他職種の質問に占めるデザイン業務はわずか1.7%。「何でもやるが、誰もデザインを頼まない」状況が浮き彫りになった。
  • レポートの15ページ付録には「補足データ」が示されている。汎用業務を各職種に含めて計算し直すと、8職種ともに65%〜82%は「本来の職務+汎用業務」に従事しており、タスククロスオーバーが本来の職務を代替したわけではない。
⚑ 本資料のデータ元はOpenAI自身です。サンプルはChatGPTユーザーのメッセージであり、「各メッセージがどの業務に該当するか」の判定もOpenAIのモデルによるものです。データとコードは非公開のため第三者による再現はできません。以下の数値はレポート本文および図表をそのまま転載しており、当サイトが独自に試算した部分は別途明記しています。
はじめに

仕事メッセージ100件中17件が「他人の職務」

OpenAIの経済研究チームは2026年7月27日、全16ページのレポート『Work at the Frontier』を公開し、仕事に関連するChatGPTメッセージ80万件以上を分析した。同レポートが明らかにしようとしたのは、「人がAIを使って行う作業のうち、本来の自分の職務とは異なるものがどれくらい占めるか」という具体的な問いだ。

16.8%
全仕事メッセージの中で、歴史的に別の職種に属するタスクの割合。一切の集計処理を加える前の生データである。

レポートでは各メッセージを3つに分類している。メール作成や日程調整など誰でも行う汎用業務が61.5%、 capitalized職種本来の本来の職務が21.8%、歴史的に他職種の領域とされるタスククロスオーバー(越界業務)が16.8%だ。合計が100.1%になるのは四捨五入による端数調整のためである。

80 万+
分析した仕事メッセージ数
61.5%
汎用業務
21.8%
本来の職務
16.8%
タスククロスオーバー

レポートではこの現象をタスククロスオーバー(task crossover)と命名している。歴史的に特定職種の領域だったタスクが、別職種の人物によるAI対話に登場する現象を指す。対象としたのはカスタマーサポート、デザイン、エンジニアリング、財務、人事、法務、マーケティング、営業の8職種だ。

本レポートはシリーズの第1弾に位置づけられる。前身となったのはOpenAIの『AI Jobs Transition Framework』で、米国の921職種・約1.48億人の雇用を4区分(自動化リスク高18%、再編成24%、拡大可能性あり12%、短期的な変化小46%)に分類していた。ここでいう「再編成」とは、雇用自体は維持されるものの、日々の業務内容が変化することを意味する。今回の新レポートは、その「再編成」の実態を具体的に検証したものだ。

著者はCaroline Chin氏とAlex Martin Richmond氏の2名。レポート背景部分で引用されている「Autor, Chin, Salomons, and Seegmiller (2024)」は、第一著者本人の論文です。この論文『New Frontiers: The Origins and Content of New Work, 1940–2018』は『Quarterly Journal of Economics』(QJE)2024年第139巻第3号に掲載されたもので、MITのデービッド・オーター氏を第一著者とし、過去80年間の新職種の誕生プロセスを分析している。今回のレポートの第一著者は労働経済学の専門家です。

次に重要なのは、先述の「17件」と世間で話題になっている「43.5%」がどのような関係にあるかを明らかにすることです。

手法

メッセージの「タスククロスオーバー」判定手法

あるメッセージが「クロスオーバー(越界)」したと判断するには、まず「その人物の職種」と「メッセージが示すタスク」の2つを特定する必要がある。レポートでは4ステップの手順を採用している。以下の例はレポートの図1に基づくものだ。

職種営業
メッセージ
主要タスク
照合
ChatGPT Enterprise登録時に部署と役職を入力したユーザーであり、システムは「営業」と特定。未入力のユーザーはサンプルから除外された。
職種営業
メッセージ「LPのプロモーション案を作成して」
主要タスク
照合
個人ChatGPTアカウントのメッセージ1件を抽出。分類時には同スレッド内の直前最大9件をコンテキストとして参照するが、タグ付けは当該メッセージのみに行う。
職種営業
メッセージ「LPのプロモーション案を作成して」
主要タスクマーケティング素材の作成
照合
モデルがO*NETから最も近いタスクを選択。1つのメッセージに複数の作業が含まれる場合も、主要な1件のみを抽出し、他は記録しない。
職種営業
メッセージ「LPのプロモーション案を作成して」
主要タスクマーケティング素材の作成
照合営業に非該当 → クロスオーバー
「マーケティング素材の作成」はO*NET上でマーケティング職に分類され、営業の定義域外となるため、クロスオーバーと判定される。

上の4つのタブをクリックして順に確認できます。イラスト内容はレポート図1の営業/LPの例を再現したものです。

ここで2つの用語を整理しておこう。O*NETは米国労働省が管理する職業データベースで、各職種を具体的な業務活動に細分化しており、本レポートでは「そのタスクが歴史的にどの職種に属するか」の基準として使用されている。詳細業務活動 (DWA)(detailed work activity)はこのデータベースの最小単位であり、例えば「コンピュータアプリケーションやシステムのトラブルシューティング」「財務データの計算」などが該当する。

たとえるなら

O*NETは「全国共通の職務記述書全集」のようなものだ。「営業」のページを開くと、営業担当が行うべき業務が網羅されている。本レポートが行ったのは、ChatGPTの各メッセージをこの全集のいずれかの項目に照らし合わせ、それが誰のページに載っているかを確認する作業である。

「自分の職域内かどうか」の判定には、一定の猶予が設けられている。厳密な一致は求められず、あるタスクが自身の職域内にある最も近いタスクと0.80以上(最大値1)のセマンティック類似度を持つ場合も「本来の職務」とみなされる。したがって「本来の職務」の範囲は広めに設定されており、クロスオーバーと判定されるハードルは見た目以上に高い。

詳細表示:分類の階層プロセス

まずメッセージが分類対象となるかの一次スクリーニングを行う。「ユーザーの職種が特定できること」「米国在住であること」「仕事関連のコンテンツであること」の3条件を満たすもののみを抽出する。次に、まず中間業務活動 (IWA)へ分類し、そのIWAまたはタイトルベクトルが最も近い5つのIWAの中から詳細業務活動 (DWA)を1つ選定する。職域の特定においては、雇用シェアで加重平均して職能を具体的なSOCコードにマッピングし、O*NETのタスクリンクとタスクスコアを辿って対応するDWAを導き出す。メッセージから直接DWAを付与するのではなく、段階的な層構造で判定を行っている。

3つの分類が完了した。次に控えるのは、本レポートがメディア等で報じられる際に最も誤解が生じたステップである。

メカニズム

43.5%の数字は6割のメッセージを除外して再計算したもの

16.8%と43.5%は、まったく同じメッセージ群から算出された数値である。両者の間には「全仕事の61.5%を占める汎用業務を母数から除外し、残る38.5%の専門的質問のみを取り出して再度100%として試算する」という処理が入っている。16.8%を新しい母数38.5%で割ると、43.5%という数値が導き出される。

母数 = 全仕事メッセージ
61.5%汎用業務
21.8%本来の職務
16.8%クロスオーバー
母数 = 非汎用メッセージの38.5%(100%に再試算)
56.5%本来の職務
43.5%クロスオーバー
2つのバーは同一のメッセージ群に基づいている。上のバーの母数は全仕事メッセージ、下のバーは非汎用の38.5%のみを抽出したもの。データはレポート図2より(当サイトにて日本語版として再描画)。
レポート図2:汎用61.5%、本来の職務21.8%、クロスオーバー16.8%。非汎用部分を基準に再計算すると本来の職務56.5%、クロスオーバー43.5%となる
レポート図2の原図。右上には「denominator: all work-related messages(母数:全仕事メッセージ)」、中央には「Retained 38.5%: non-generic(非汎用38.5%を保持)」、下のバーには「rebased to 100%(100%基準で再試算)」と明記されている。出所:OpenAI『Work at the Frontier』。

この処理自体はレポート内で明確に示されており、図中には「rebased to 100%」、本文中にも「Excluding generic work(汎用業務を除く)」と書かれている。欠落していたのは二次情報での伝達プロセスです。

どちらの表現も正しい

仕事メッセージ100件中、約17件が他人の職務である。

特定の専門領域に帰属するメッセージに限れば、半数近くがクロスオーバーである。

後者の表現はより刺激的に聞こえるが、省略された6割こそが、現在多くのユーザーがAIで処理している業務(メール作成、文章校正、日程調整など)なのである。

集計基準が明確になったところで、レポートの基準に沿って8職種ごとの違いを見ていこう。これ以降「クロスオーバー割合」と表記する場合、特に断りのない限り、母数は非汎用の「専門的質問」を指す。

職種別の比較

CSとデザインでクロスオーバー最多、エンジニアリング最少

43.5%という全体数値の内訳を8職種で見ると、最も高いカスタマーサポート(CS)が77%、最も低いエンジニアリングが28%と、3倍近い大きな開きが存在する。

CS
77%
デザイン
75%
人事
69%
法務
56%
マーケティング
53%
営業
40%
財務
40%
エンジニアリング
28%
0%50%100%
各職種の専門的質問に占めるクロスオーバーメッセージの割合。データはレポート図3より。当サイトにて日本語版として再描画し、横軸を0–100%に調整(原図は80%まで)。

8職種のうち5職種で過半数に達している。濃い色で示された5つの職種では、ユーザーがChatGPTに専門的な質問をする際、大半が「自分の専門外の業務」に関する質問であることを示している。

エンジニアリングの28%という最低値については補足が必要だ。これはエンジニアが他職種の業務を行わないという意味ではない。絶対量で見ると、エンジニアはAIをコーディング、デバッグ、コードレビューといった本来の職務に大量に利用しており、母数が大きく膨らむためクロスオーバーの割合が希釈されているのである。後述するように、エンジニアの全仕事メッセージに占めるクロスオーバー割合も18.5%と8職種中最低だが、これは「エンジニアの業務が他職種に流出しているか」という問いとは全く別の問題だ。

タスクの流出先

マーケティングとエンジニアリングのタスクが他職種へ流出

前節ではどの職種でクロスオーバーが多いかを見たが、「どの職種の領域を侵しているか」は未検証だった。レポートの図4がこれに答えている。行は発言者の職種、列はO*NETにおけるタスクの本来の帰属職種を表し、バブルが大きいほど割合が高い。

レポート図4:8×8のバブルマトリクス。行は従事者の職種、列はタスクの伝統的な帰属職種
レポート図4。縦軸Worker occupationは発言者の職種、横軸Traditional task sourceはタスクの伝統的帰属先。列名は左からCustomer experience(CS)、Design(デザイン)、Engineering(エンジニアリング)、Finance(財務)、Human resources(人事)、Legal(法務)、Marketing(マーケティング)、Sales(営業)。濃い色の対角線は各職種自身のセルを示す。母数は各行の非汎用・専門的質問であり、四捨五入のため行内合計が100%にならない場合がある。出所:OpenAI『Work at the Frontier』。

レポート本文では、「マーケティングとエンジニアリングのタスクが、他職種のAI利用において最も頻繁に登場する」と分析している。具体的には、マーケティング系タスクが営業およびデザイン従事者の非汎用メッセージの28%〜29%、CSの26%を占める。またエンジニアリング系タスクはデザイン従事者の28%、CSおよび財務の20%〜22%を占めている。

このマトリクスを1行ずつ読み解くと、レポート本文には明記されていない事実が浮き彫りになる。

当サイトの分析

8行のうち5行において、最も割合が高いセルが自身の職種列ではない。これら5行でトップを占めるのは、すべて「マーケティング」である(デザイン行ではエンジニアリングと同率)。

職種タブをクリックして内訳を比較できます。関心のある職種を選択し、タスクの構成比と自職種の順位を確認できる。

職種タブをクリックして内訳を比較できます
CS職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクは4位。上位3つは他職種。マーケティングが26%を占め、CS自体のセル(11%)の2倍以上。
マーケ
26%
工程
20%
財務
14%
CS
11%
← 自分の職種
営業
11%
人事
6%
法務
6%
デザイン
5%
デザイン職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクは3位。エンジニアリングとマーケティングが各28%で、デザイン自体の2倍以上。
工程
28%
マーケ
28%
デザイン
12%
← 自分の職種
財務
10%
営業
8%
CS
6%
人事
未表記
法務
未表記
エンジニアリング職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
8職種で唯一、自身のセルが過半数(53%)を占める。本来の職務の利用量が大きく、クロスオーバーが希釈されている。
工程
53%
← 自分の職種
マーケ
20%
財務
9%
CS
未表記
デザイン
未表記
人事
未表記
法務
未表記
営業
未表記
財務職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクは2位。1位のマーケティング(25%)と僅差(23%)。
マーケ
25%
財務
23%
← 自分の職種
工程
22%
法務
8%
営業
7%
CS
6%
デザイン
未表記
人事
未表記
人事職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクは4位で10%のみ。8職種の中で最も自職種セルの割合が低い。
マーケ
23%
工程
18%
財務
16%
人事
10%
← 自分の職種
法務
10%
CS
9%
営業
9%
デザイン
5%
法務職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクが1位(31%)だが、残り7割は他職種に分散している。
法務
31%
← 自分の職種
マーケ
18%
工程
17%
財務
12%
人事
7%
営業
6%
CS
5%
デザイン
未表記
マーケティング職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクが1位(36%)。他職種への流出が最多であると同時に、自身の職域も強固に維持している。
マーケ
36%
← 自分の職種
工程
17%
営業
12%
財務
11%
CS
10%
デザイン
6%
人事
未表記
法務
未表記
営業職のAI専門的質問は、誰のタスクに使われているか
自職種のタスクは4位。マーケティングが29%で、営業自体のセル(12%)の2倍以上。
マーケ
29%
工程
18%
財務
15%
営業
12%
← 自分の職種
CS
11%
法務
6%
デザイン
5%
人事
未表記
バーの長さは統一スケールで描写(最大セル53%)。母数は各職種の非汎用・専門的質問。データはレポート図4より。数値が非常に小さいバブルは原図で未表記のため、当サイトでも推計を行っていない。

8行を確認すると、明確な傾向が浮き彫りになる。要約した表が以下だ:

対象職種自職種セル行内最大セル
CS11%マーケ 26%(工程 20%)
デザイン12%工程 28%、マーケ 28%
人事10%マーケ 23%(工程 18%)
営業12%マーケ 29%(工程 18%)
財務23%マーケ 25%
エンジニアリング53%エンジニアリング自身
マーケティング36%マーケティング自身
法務31%法務自身

当サイトがレポート図4の各行から数値を抽出・整理したものであり、レポート本文にこの一覧表があるわけではない。各行の表記数値の合計は82%〜100%の間(原図で数値未表記の小さなバブルがあり、エンジニアリングの行が最多)、図注にある四捨五入の記述と一致する。財務の行における25%と23%の差は2ポイントと僅差であり、誤差範囲内といえる。

集計基準に関する注記 図3ではCSの本来の職務が23%(100−77)とされ、図4ではCS自身のセルが11%となっているが、これらは矛盾しない。図3の「本来の職務」は類似するタスク(類似度0.80以上)も包含しているのに対し、図4は各タスクを最も該当する1つの職種に厳密に分類しているためである。2つの図は異なる問いを検証している。

では、具体的にどのようなタスクが流出しているのだろうか。レポート表2は頻出する5つのクロスオーバータスクを挙げている。「カバー率」の列は、残り7職種のうち何職種でそのタスクが上位3位に入っているかを示す。

タスク本来の帰属カバー率最高割合の職種
財務データの計算財務7/7営業 14.3%
コンピュータアプリ・システムの障害調査エンジニアリング7/7CS 7.6%
顧客への商品・サービス情報の案内CS7/7マーケティング 70.8%
マーケティング素材の作成マーケティング5/7デザイン 13.6%
政府機関との折衝・コミュニケーション法務7/7CS 21.4%

「財務データの計算」と「ソフトウェアのトラブルシューティング」は最も汎用的に浸透しており、他7職種すべてでトップ3に入っている。非財務職種から出された財務系メッセージのうち9.8%が財務データの計算であり、非エンジニアリング職種から出されたエンジニアリング系メッセージの6.1%が障害調査であった。

もう1つ特筆すべき数値がある。非マーケティング職種が発したマーケティング系メッセージのうち、25%が「プロモーション素材の開発」に分類されている。これには広告、SNS投稿、チラシ、宣伝動画、プレゼン資料、製品ワンペーパー、イベント用画像などが含まれる。また、9.3%が「マーケティング素材の制作」、6.5%が「マーケティング計画・戦略の策定」であった。

では逆に、「タスクを外に流出させている職種」と「他人のタスクを引き受けている職種」はどこなのだろうか。

判明

デザイナーは何でもこなすが、デザイン業務の流出はほぼゼロ

レポートの図5では、タスククロスオーバーを2つの方向に分類しています。取り込みは、その職種自身のAI利用のうち他職種の業務が占める割合を指し、流出は、その職種の業務が他職種の質問にどれだけ登場しているかを示します。この2つの方向性は必ずしも連動していません。

← 取り込み(他職種の業務の割合)
職种
流出(自職種業務の他者実施率)→
35.2%
デザイン
1.7%
32.1%
営業
3.0%
30.4%
人事
1.8%
30.4%
カスタマーサポート
2.7%
29.9%
経理・財務
4.5%
24.9%
法務
2.3%
24.3%
マーケティング
8.9%
18.5%
エンジニアリング
7.4%
左右のグラフは同じスケール(最大40%)を使用しているため、右側が全体的に短いのは拡大縮小によるものではなく実際の格差を表しています。左側の母数はその職種の全ワークメッセージ(汎用業務を含む)であり、右側はその職種の業務が残り7職種で発生した割合の平均値です。データはレポートの図5より引用し、当サイトで日本語版として再作成しました。

デザインは両極端な数値を示しています。取り込み率はトップの35.2%であるのに対し、流出率は最下位の1.7%と、実に20倍もの差があります。デザイナーはAIを活用して複数の職種の業務を積極的に取り込んでいるものの、デザイン自体の業務が他職種に流出することはほとんどありません。

エンジニアリングはその逆です。エンジニア自身のクロスオーバーは最小(18.5%)ですが、エンジニアリング業務の流出率は2番目に高く(7.4%)、他職種に最も多く取り込まれている業務の一つとなっています。

マーケティングは唯一、両方の数値が高い職種です。メッセージの24.3%で他職種の業務を行っていると同時に、自身の業務も8.9%の割合で他職種の質問に登場しており、サンプル全体で最高値となっています。

3つのタイプ

デザイン型:AIを使って複数職種の業務を横断してこなす。エンジニアリング型:自職種に専念する一方で、業務が他職種に流出する。マーケティング型:取り込みと流出の両方が高い。

レポート図5:左図 Tasks brought in(取り込みタスク)、右図 Tasks that travel(流出タスク)
レポート図5の原図。左図はTasks brought in(取り込み)、右図はTasks that travel(流出)で、両図の横軸は0〜40%。CXはカスタマーサポート、Mktg.はマーケティング、Eng.はエンジニアリングを示す。出所:OpenAI 『Work at the Frontier』。

レポートでは、「これが職種の消失を意味するわけではない」と注記されています。AIによって非専門家であっても手を取りやすくなる業務がある一方で、専門的判断や検証においては引き続き専門家の存在が不可欠です。これらの結果が示しているのは業務分担の変容であり、人員の増減を直接予測するものではありません。

個人レベルの分析を見てきましたが、では組織の規模による影響はあるのでしょうか?

組織規模

小規模企業ほどクロスオーバーが多い傾向——中頻度ユーザー限定

レポートの図6では、ワークスペースの席数(ライセンス数)別に分類しています。2〜5席のワークスペースではクロスオーバーメッセージが18.9%を占めるのに対し、101席以上では16.3%となっており、一見すると綺麗な右肩下がりの傾向が見られます。

しかし、この結果を鵜呑みにできない3つの理由があります。

1. 傾きは見た目ほど急ではない。図6の縦軸は16%から19%のわずか3ポイントの幅しかありません。18.9%から16.3%への低下は2.6ポイントであり、レポート本文でも「約2.5ポイントの低下、最小ワークスペース比で約13%の減少」と記述されています。

2. この傾向は中間層のユーザーにのみ当てはまる。レポートではユーザーをメッセージ量に応じて3グループに分類し、付録図A1に掲載していますが、3つのラインの挙動は全く異なります。

レポート付録図A1:下位25%、中間50%、上位25%の3グループにおけるワークスペース規模別の傾向
レポート付録図A1。3つのパネルは左からメッセージ量が最も少ない25%、中間50%、最も多い25%を示す。横軸のWorkspace seatsはワークスペースの席数。出所:OpenAI 『Work at the Frontier』。
ユーザーを3グループに分けて分析すると、「小規模企業ほどクロスオーバーが多い」が成立するのは中間層のみ
14% 16% 18% 20% 18.8 2–5席 19.5 6–15 14.5 16–25 13.9 26–100 13.7 101+
下位25%は急降下していますが、レポートの注記によると最大規模のワークスペースのサンプルはわずか197件のメッセージにとどまり、精度が不十分です。
14% 16% 18% 20% 18.9 2–5席 17.9 6–15 17.9 16–25 17.7 26–100 16.3 101+
中間50%:本文で引用されているのがこのグループです。18.9%から16.3%へと緩やかに低下しています。
14% 16% 18% 20% 16.3 2–5席 15.8 6–15 17.4 16–25 14.7 26–100 16.4 101+
上位25%は増減を繰り返しており、明確な傾向が見られません。レポート自体も「ヘビーユーザーにおいては単調な傾向が見られない」と記しています。
縦軸は3グループ共通で13%〜20%に設定されているため、数値の比較が可能です。横軸はワークスペースの席数。データはレポート付録図A1より引用。
ユーザー区分2–5席6–1516–2526–100101+
下位25%18.819.514.513.913.7
中間50%18.917.917.917.716.3
上位25%16.315.817.414.716.4

単位:%。データはレポート付録図A1より引用。下位25%グループにおける最大規模ワークスペースのデータはわずか197件のメッセージに基づいており、精度が低くなっています。

本文で引用されているのは中間層のデータです。上位25%の行は16.3、15.8、17.4、14.7、16.4と推移しており、一定の方向性が見られません。レポート自身も「ヘビーユーザーには単調な傾向が存在しない」と明記しています。

3. 席数は必ずしも企業規模を反映しない。企業が一部の従業員にのみアカウントを付与している可能性があるためです。レポートではこれが記述的な比較に過ぎず、席数は「専門化の程度、業界、組織の成熟度、身近に相談できる相手の有無」といった要因の代理指標に過ぎない可能性が指摘されています。

レポートが提示する解釈の一つとして、小規模企業ではタスクを委任できる専門スタッフが不足しているため、マーケティングのコピー作成、システム障害の調査、契約書の確認などが必要になった際、自らAIを活用せざるを得ない点が挙げられます。一方、大企業の従業員であれば、既存の専門チームや標準プロセスに委任する傾向が高くなります。ただし、これは一つの可能な解釈であり、実証された因果関係ではありません。

しかし、これらの割合はすべて、「共通業務が除外された母数」に基づいています。除外された部分を元に戻すと、見えてくる構図は大きく変わります。

付録

共通業務を含めれば全職種で「本来の職務」が過半数

レポートの15ページでは、「汎用業務(共通業務)」を各職種のセルに加算し直してマトリクスを再計算しています。

レポート付録図A2:汎用業務に対角線を含めたタスク出所マトリクス
レポート付録図A2。サブタイトル「Dark diagonal = own-occupation + shared work」は、濃い色の対角線が本来の職務と共有業務の合計であることを示しています。対角線の8つの数値は上から順に、カスタマーサポート70%、デザイン65%、エンジニアリング82%、経理・財務70%、人事70%、法務75%、マーケティング76%、営業68%です。出所:OpenAI 『Work at the Frontier』。
エンジニアリング
82%
マーケティング
76%
法務
75%
カスタマーサポート
70%
経理・財務
70%
人事
70%
営業
68%
デザイン
65%
0%50%100%
本来の職務と共有業務を合わせたタスクが、その職種の全メッセージに占める割合。データはレポート付録図A2の対角線より引用し、当サイトで日本語版として再作成しました。

8つの職種はすべて65%〜82%の範囲に収まっています。前述の計算でクロスオーバー率が最も高かったカスタマーサポート(除外前は77%)もここでは70%となり、デザイン(同じく75%)は65%となっています。

Task crossover does not replace role-specific work: every occupation still retains a meaningful diagonal of same-occupation or shared activity.

タスククロスオーバーは職種固有の業務を代替するものではない。すべての職種において、自職種の本来業務または共有業務が依然として大きな割合を占めている。

『Work at the Frontier』15ページ

同時に、マトリクスの対角線以外のセルは、人々が本来の職務と他職種の業務を複合的にこなしている実態を示しています。特にマーケティングとエンジニアリングの列でその傾向が顕著です。レポート自体は「タスクの組み合わせが多様化し、AIによって職務の領域が拡大しているものの、各職種には明確な中核業務が残されている」と分析しています。

最大のポイント

43.5%という数値は、全体の61.5%を占める「共通業務」を除外したことで現れたものです。これらを加味すれば、誰もが依然として本来の職務と共通業務を中心に行っていることが分かります。

クロスオーバーは「置き換え」ではなく「上乗せ」です。

この重要な補正データは15ページに掲載されていますが、インパクトのある数値は3ページに提示されており、その間には12ページもの隔たりが存在します。

今後の展望

レポートが提起する2つの本質的課題

本来の職務が代替されていないとすれば、真の変化はどこに生じているのでしょうか。レポートは結論部分でこれを2つの課題として整理していますが、いずれも明確な回答は提示していません。

1つ目の課題:AIを活用して他職種の業務を行う状態が常態化した場合、それが職務定義の長期的な変化につながるのか。もしそうであれば、従業員は専門外のAI成果物を評価・判断する能力を身につける必要が生じ、組織は明確な検証・責任プロセスを構築する必要があります。

具体的には次のような状況です。プログラミング知識のないマーケティング担当者がAIを使って公式サイトの不具合を修正した場合、その修正内容の妥当性を誰が判断するのか。カスタマーサポートがAIで規制機関への回答文書を作成した場合、誰が最終署名を行うのか。前述の表2において「行政機関との交渉・連絡」業務はカスタマーサポート職種の21.4%を占めています。レポートは回答を示していませんが、この現実的な課題を明確に浮き彫りにしています。

2つ目の課題はより深刻です。公的な職業データベースは、業務が歴史的にどのように分担されてきたかを記録しています。AIによって業務の担い手が変化した場合、従来の職務記述書に基づく統計基準は現実から乖離していくことになります。そして、本レポートが分析の基準尺度として用いたのが、まさにこのO*NETなのです。

歴史的に見て、こうした曖昧化は新たな職種の創出につながる

レポートの背景説明に含まれる一節は、各種の統計数値以上に重要な示唆を含んでいます。これは本データの独自性を次のように説明しています。

Analysis of Generative AI usage offers a window into an earlier stage of the job evolution process, as workers can begin testing and recombining tasks before firms revise job descriptions or invent new job titles altogether.

生成AIの利用状況に関する分析は、職種の進化プロセスにおけるより初期の段階を捉える視点を提供する。企業が職務記述書を改定したり新しい職種名を定義したりする前に、労働者が自発的にタスクの再編成や検証を開始しているためである。

『Work at the Frontier』4ページ

従来の働き方の変化に関する研究では、求人広告や職種名、雇用統計に変化が反映されるのを待つ必要があり、その時点ではすでに変化が完了していました。一方、今回のデータが捉えたのはさらに手前の段階です。深夜にデザイナーがチャット画面を開き、本来エンジニアに相談すべき質問を入力する——こうした事象は人事記録には一切残りません。

レポートが引用する3つの研究は、この一連のプロセスの前後関係を提示しています。

研究主な発見本データにおける意味
Atalay et al. (2020)長期的には、業務内容の変化の相当部分が同一の職種名の内部で生じており、単なる職業構成の変化にとどまらない「デザイナー」という肩書自体は数十年変わらなくても、その実質的な業務内容は何度も変遷している
Gans (2026)自動化により特定業務のコストが変化すると、企業は職務をより狭い専門的役割に細分化するか、あるいはより広い汎用的役割に再編してゼネラリストを生み出すこの2つの対照的な方向性が今回のデータに同時に表れている(デザインはゼネラリスト化、エンジニアリング業務は外部に流出)
Autor, Chin et al. (2024)技術変革は新しい形態の仕事を生み出し、最終的には公的な職業分類に登録される境界の曖昧化はゴールではない。80年の歴史を見れば、現在大半の人が従事する職種は1940年時点では存在しなかった

3つの研究はいずれもレポートの背景章で引用されています。最後の論文『New Frontiers: The Origins and Content of New Work, 1940–2018』の共著者であるCaroline Chin氏は、本レポートの筆頭著者です。

これら3つの研究をあわせて読み解くことで、本レポートの立ち位置が明確になります。職務境界の再編は過去80年間にわたり継続しており、今回のデータはその最新の一コマを捉えたものに過ぎません。この変化の波は今後も続いていきます。

考察:変化はどこから顕在化するのか

※以下の内容は、レポートの事実に基づいて当サイトが独自に推論したものであり、レポート自体が予測しているものではありません。一つの仮説としてお読みください。

タスクのクロスオーバーがさらに進む場合、最初に変化が生じるのは職種名ではなく、日常的に使われながらも見過ごされがちな領域です。求人要件の「歓迎条件」欄が拡充され、カスタマーサポート求人に「基本的なSQLの理解」、デザイン求人に「データトラッキングの読解力」といった項目が加わるようになるでしょう。評価シートには責任の所在が曖昧な成果物が現れます。ランディングページのコピーがマーケティングと営業のどちらによるものか、双方が主張できるようになるためです。研修予算の一部は「自職種の専門性の深掘り」から「隣接職種の成果物の妥当性を判定する能力の習得」へとシフトしていきます。

その先に控えているのが責任の問題です。レポートの結論にある「従業員は専門外のAI成果物を評価・判断する能力を身につける必要がある」という指摘は、企業実務においては「最終承認権」の課題に直結します。カスタマーサポートがAIで作成した規制機関への回答文書を、法務部門がチェックすべきかどうか。チェックすれば作業効率は以前の状態に戻り、チェックしなければ問題発生時の責任の所在が曖昧になります。レポートはこの課題を提示しているものの明確な回答は与えていません。答えはデータではなく、各企業の運用プロセスの中に存在するからです。

まとめ

本レポートにおいて最も実証的な記述は、付録に置かれた「クロスオーバーは本来の職務を代替していない」という点です。8つの職種において、全業務の65%〜82%は依然として本来の職務および共有業務で占められています。

変化が生じているのは職務の「外周境界」です。かつて明確だった境界線が徐々に曖昧化しています。AIによる働き方の変化を示す各種の数値は、すべてこの境界領域から算出されたものです。

全16ページのレポート本編(技術付録の分類フローおよび2枚の付録図を含む)は直接ダウンロード可能です。前提となる『AI Jobs Transition Framework』では921の職業を4つに分類しており、本シリーズを理解するための背景知識を提供しています。両レポートのリンクは以下の出所に掲載されています。
出所
Work at the Frontier: How AI is expanding what people do at workOpenAI Economic Research(Caroline Chin、Alex Martin Richmond)·レポートPDF·2026-07-27
当サイトの注記
図2、図4、図5、図A1、図A2はレポートの原図を埋め込んでおり、図注の補足説明は当サイトにて追加しました。レポート図1(分類フロー)および図3(8職種のランキング)は、原図のデータに基づき当サイトで日本語版として再作成したもので、図3の横軸は原図の0〜80%から0〜100%に変更しています。「8職種のうち5職種で最も割合が大きいセルが自身の列にない」という記述は、当サイトがレポート図4の各行の数値を読み取って導き出したものであり、レポート本文に直接の記述はありません。引用文の日本語訳は当サイトによるものであり、原文(英語)も併記しています。