製品リリース · 小互解説

OpenAIがPresenceを発表:企業向けAI Agent、本番後の運用まで製品化

顧客対応と社内プロセス向け。対話チャネルはまず音声とチャット。OpenAI自社電話線で75%が人の介入なしで解決したと自己申告。Codex改善ループが10日で有人転送をさらに15ポイント圧縮
1分で要点
  • Presenceは、信頼できるAI Agentを企業が配備・運用するための製品です。質問への回答、事務処理、社内システム連携、承認済みアクションの実行ができ、必要時は人に引き継ぎます
  • 配備は1件ずつ、ひとつの業務に特化(請求、保険金、社内ITなど)。以下は「サブスク二重請求」のサポート事例で、権限・ポリシー・シミュレーション・改稿承認の流れを一通り見ます
  • 本番前に一括シミュレーション可能。本番後はCodexが改稿案のみ提示し、新版は現行版と照合したうえで人が承認します
  • 対話チャネルはまずリアルタイム音声とテキストチャット。限定公開で、駐在エンジニアが導入を伴走。価格は未公表
75%解決率、10日で有人転送が15ポイント低下はOpenAIの自己申告で、第三者未検証です。BBVAは設計パートナーで探索中、SoftBankはテスト中、IAGは探索段階。中核の対話モデルはOpenAIモデル必須、ガードレールとツールはサードパーティ接続可。価格とSLAは未開示。
どこで詰まるか

企業Agentの壁は、本番投入のあと

2026年7月22日、OpenAIは企業向け製品Presenceを発表しました。

用語をはっきりさせます。ここでいうAgentとは、企業が実業務に載せるAIアシスタントです。質問に答え、事務を処理し、会社の許可の範囲で社内システムを使い、承認済みの操作を実行し、難航や高リスク時は人に渡します。顧客向け(請求・保険金)でも、社内向け(ITヘルプデスクなど)でも使えます。Presenceがやるのは、この助手を業務に組み込み、本番稼働後も制御し、改修できる状態に保つことです。

Presenceの各配備は、具体的な職務から始まります。請求争いの処理、保険金の支援、従業員ITリクエストなどです。助手は、その職務に必要な知識とシステム権限だけを受け取ります。できること、人の承認が必要なタイミング、有人転送が必須な条件は、会社が決めます。

ここ2〜3年、多くの企業が似た能力を試してきました。会議室でモデルをつなぎ、「こんにちは、注文を確認したい」と少し対話させると、それっぽく聞こえます。発表会や社内パイロットも、ここで止まりがちです。会話は滑らかで口調も人間らしい——「AIと話せる」と感じる段階です。

助手が実業務に入ると、景色が変わります。相手が欲しいのは丁寧な話術の繰り返しではなく、二重請求の返金など「用事の完了」です。注文・請求の社内システムにつながり、ポリシーどおり動く必要があります。ルールが変わったら暴走しないか。権限を広げすぎて触ってはいけない口座をいじらないか。本番前に本当に難しいケースで練習したか。本番で事故ったら誰が直し、直しで悪化しないか。——Presenceが狙うのは、「話せる」先に残るこの一連の課題です。以降は「サブスク二重請求」のサポート事例で能力を開いて説明します。事例は説明用の一本道で、製品自体は多様な企業職務向けです。対話入口は、まずリアルタイム音声とテキストチャットを開いています。

タップでつまずきを見る
よくある4つの断点。Presenceはここを狙っています
話せる ≠ 仕事できる

顧客が欲しいのは「二重請求を返して」であり、丁寧な話術の再放送ではありません。Agentは注文・請求システムにつながり、ポリシーどおり操作を実行する必要があります。モデルだけつなぎ、システムとルールをつなげなければ、チャットボット止まりです。

権限が広すぎ/狭すぎ

権限が広すぎると、触ってはいけない口座までAgentが変えかねます。狭すぎると注文が照会できず返金もできず、有人転送ばかりになります。Presenceのやり方は、職務ごとにその仕事に必要な知識とAPIだけを渡すことです。

本番前に本気の練習なし

理想的なデモ会話数本では、実サポートの暴言、再入電、ポリシー境界、詐欺話術には耐えられません。Presenceは本番前に模擬ケースを一括実行し、採点器で結果・ポリシー・ツール・有人転送の要否を検査できます。

本番後もルールが変わり続ける

返金ポリシー変更、新商品投入、ユーザーの言い回し変化——Agentも追従が必要です。Presenceは、本番中のAgentが自分自身を直接書き換えない設計です。コーディングアシスタントCodexが提案し、チームが新版と稼働中バージョンを比較し、人が承認してから載せ替えます。

事例で最初から最後まで

「二重請求」の電話1本で、Presenceの動きを見る

製品能力は汎用です。職務ごとにAgentを配備し、システム接続、ポリシー遵守、業務実行、有人転送ができます。説明のため、製品UIのイメージ事例を最初から最後までたどります。職務はサポート、チャネルは電話とテキスト。架空ECのSwiftcartで、顧客はサブスクが2回引き落とされたと訴えます。聞き取りから返金まで、Presenceが実セッションで何の能力に頼るかを順に見ます。

Swiftcartイメージ:左は音声で二重請求を処理、右はテキストで注文状況を照会
イメージUI:左は電話(波形+逐語ログ)。顧客は2回引き落とされたと話し、Agentは口座確認後に返金へ。右はテキストチャット。顧客が注文状況を尋ねると、Agentが「注文状況照会」を呼び、特定済みの請求書カードを出します。同じ能力を、音声でもテキストでも使えます。
ステップをタップしてたどる
事例:顧客Rowanから「サブスクが2回引き落とされた」と電話
Step 1 · チャネルと理解

顧客が何を言っているか聞き取る

能力:リアルタイム音声 / テキストチャット

顧客は電話でも、テキストでも入れます。Presenceは当面この2つのリアルタイム対話チャネルを先にサポートします。電話ではAgentが聞きながら返し、チャットでは1通ずつ受けます。

このステップの成果物は具体的です。「サブスク料金が2回引き落とされた」を処理可能なチケット意図にまとめること。雑談で止まれば完了ではありません。

Step 2 · 本人確認

口座の本人だと確認する

能力:発信者確認 / 口座コンテキスト

返金は実金が動きます。まず相手が口座本人か確認します。Agentは会社規定の本人確認(イメージでは口座コンテキストを使用)を通し、通過後に請求照会へ進みます。

確認に失敗するか異常の兆候があれば、返金を進めずルールどおり有人へ渡します。

Step 3 · ツール

社内システムで注文と請求を照会する

能力:承認済みツール呼び出し · 最小権限

イメージではAgentが「注文状況照会」(LOOKUP ORDER STATUS)を呼び、二重請求を確認してから返金に進みます。テキスト側では同じツールが請求書番号カードを出します。

全社の全システムには届きません。この職務はサポートに必要なAPIだけ——注文照会、請求照会、限度内返金——を接続します。つながっていないシステムは触れません。

Step 4 · ポリシー

会社の返金ルールで返せるか判断する

能力:ポリシーとSOP · ガードレール

二重請求を確認したあとも、会社ポリシーを当てます。自動返金の可否、限度額、再確認の要否。ポリシーはPresenceに書き込み、Agentはルールどおり動きます。

会話が境界を外れた場合(権限外の機微情報変更など)、ガードレールが止め、無理な実行を防ぎます。

Step 5 · アクション

承認済みの返金アクションを実行する

能力:承認アクション(approved actions)

イメージではAgentが返金を処理すると伝え、「PROCESSING REFUND」に入ります。これは会社が事前に「実行可」リストへ載せたアクションに対応し、口約束だけでは実行できません。

リストにないアクションは実行できません。新アクションを足すなら設定変更・再テスト・再投入が必要で、その場の発明は不可です。

Step 6 · セーフティネット

手に負えない/高リスクなら人へ

能力:有人転送ルール

金額超過、本人不一致、顧客の感情エスカレーション、ポリシー外——いずれも有人へ。Presenceは「いつ人が必ず引き継ぐか」をルール化し、Agentの自制に頼りません。

有人転送自体も製品能力です。セッション文脈ごと渡し、顧客に3度目の説明をさせません。

要望を聞き取る
本人確認
注文・請求照会
返金ポリシー適用
返金実行
必要時は有人へ
こう捉えてよい

新人サポートに初日の社員番号を渡すイメージです。サポート関連システムだけ、限度内返金だけ。超過や揉める案件は上司へ。マスターキーを渡して「気をつけて」と口頭注意するやり方ではありません。

事例で使った能力

Presenceに載っている部品

上の返金電話を分解すると、部品が揃います。同じ部品セットは他の職務にも載せられます。請求サポート、保険金、社内ITヘルプ——ポリシー雛形と評価方式は共有し、権限と実行可能アクションは職務ごとに変えます。事例はサポートですが、製品はサポート限定ではありません。

リアルタイム音声 + テキストチャット

現在開いている対話入口。電話でもテキストでも同じ処理ロジックへ入れます。メールなど他チャネルの提供有無は、現時点で明確な約束はありません。

職務単位の知識とシステム権限

配備は1種類の業務だけ。その業務に必要なデータとAPIだけをつなぎます。

ポリシーとSOP

返すか、どう返すか、話術の境界を実行可能なルールに書きます。

ガードレール

会話が越境したときに介入し、やってはいけないことを止めます。

承認アクション

返金・サブスク変更などは事前に名指しで認可。Agentがその場でアクションを発明できません。

有人転送

ルール発火時にセッションと文脈を人へ渡します。

シミュレーションと採点器

本番前に模擬ケースで一括演習。結果・ポリシー・ツール・エスカレーション要否を検査します。

Codex改善ループ

本番後、本番信号から改稿案を出し、現行版と比較したうえで人が承認します。

本番前後

返金ポリシー変更:まずシミュ、次にCodexが提案

先のサポート事例の続きです。会社が「年度返金ルール」を変えたとします。重複サブスクの扱い、暴言を危機案件とみなすかなど、更新が必要です。Presenceは、電話応対中のAgentへ変更をそのまま流し込みません。

まずシミュレーションです。偽だが実戦に近いリクエスト群を押し込みます。採点器(grader)がグループごとの合否、結果の正しさ、違反の有無、ツール使用の適切さ、有人転送の要否を見ます。

シミュレーションバッチ:新年度返金ポリシー変更後のグループ得点
イメージ:ポリシーを「新年度返金ルール」に変えたあと、ガードレール・返金・解約・メールとOTP検証などのグループでシミュを実行。図では各グループ80%、バッチ見出し横にPass。合格線の決め方や契約への記載有無は非公開で、宣伝イメージとして理解してください。

Agentが実電話を受け始めたあとも、システムは監視を続けます。セッション品質、有人転送率、顧客の問い。どこで苦しくなったかを、Presenceプラグイン付きのコーディングアシスタントCodexが調べ、改稿案を書きます。チームが提案版と稼働中の本番版を並べて試し、人が承認してから載せ替えます。

変更の規律

順序は固定:本番信号 → Codexが提案を書く → 新版と本番版を比較 → 人の承認。本番Agentは自分自身を上書きできません。

本番信号 セッション・有人転送 Codex提案 Presenceプラグイン 新版と本番版を比較 提案版 vs 稼働中 人の承認 その後載せ替え 返金ルールが変わっても同じループで改版 イメージ · 本サイトが製品の仕組みに基づき作図
本番投入は終点ではありません。業務ルールが変わっても「提案 → 比較 → 人の承認」のまま。本番の自動上書きはありません。
本番ダッシュボード:入電量、意図分布、遅延、タスク成績
イメージの本番ダッシュボード:配信品質スコア、入電量、顧客意図分布、応答遅延、各タスク成績。「返金系の有人転送が増え始めた」といった信号を見つけるため。指標の算出方法や契約への記載は非公開です。
すでに動いている例

OpenAI自社の電話線と、試している3社

Presenceの本番事例では、OpenAIがまず自社に載せています。英語電話サポート 1-888-GPT-0090 がPresence上で稼働中——オープンな依頼、本人確認、口座コンテキスト、承認アクション。OpenAIの自己申告では、入電の約 75% が人なしで解決し、Codex改善ループが 10日で有人転送をさらに 15ポイント下げたとのこと。同じ製品を「自社サポート」職務に載せた結果であり、製品自体はサポート限定ではありません。

75%
入電を人なしで解決(自己申告)
15pp
10日で有人転送がさらに低下(自己申告)
GPT-0090
自社英語電話線が稼働中
到達段階試していること
OpenAI自社本番稼働英語電話サポート
BBVA設計パートナー · 探索中メキシコ日常銀行の音声サポート
SoftBankテスト中日本語の顧客対話
IAG探索中異常気象などピーク時の迅速サポート

設計パートナーと明言されているのはBBVAのみ。SoftBankはテスト、IAGは探索。いずれも「既存サポートセンターを全量置換済み」ではありません。

ひとことで締める

Presenceとは何か、何に使うか

ひとつだけ持ち帰るなら、これを:

Presenceとは

OpenAIが企業に売る汎用製品です。信頼できるAI Agentを配備し、実業務のなかで長期に制御します。Agentは質問に答え、事務を処理し、社内システムを使い、承認済みアクションを実行し、必要時は人へ渡します。配備は具体的な1職務に照準(顧客側でも社内でも可)。会社がポリシーと権限を決め、本番前はシミュ可、本番後はCodex提案・比較・人の承認で改修できます。

何ではないか:おしゃべり専用のもう一つのWebボットでも、個人向けChatGPT会員機能でもありません。個人ユーザーは開けず、企業もWebでセルフ開通できません。「音声サポート専用」の単機能ツールでもありません。音声とテキストは現在開いている対話チャネル。サポート電話が最も詳しい公開事例で、請求・保険金・社内ITなどもそれぞれ配備を開けます。

意義はどこか:多くの企業はすでに「AIは人と話せる」を証明済みです。Presenceが解くのは次の段——助手が本当に業務を受けたあと、権限は誰が決め、ルールは誰が書き、本番前に練習したか、本番トラブルは誰が直し、直しで本番を壊さないか。OpenAIは、以前は自前で継ぎはぎしていたポリシー・シミュ・ダッシュボード・改稿承認を一製品にまとめ、エンジニアを駐在させて実フローへ組み込みます。

具体的に何が使えるか:事業・運用の責任者なら、ある職務のAI助手に付ける「社員番号+権限表+着任試験+品質改稿フロー」と考えるとわかりやすいです。職務は対顧客でも、社内向けでも構いません:

着任

その職務に必要な知識とシステムAPIだけ渡し、実行可能なアクション(限度内返金など)を列挙します。

規律を守る

ポリシー・ガードレール・有人転送ルールを固定。越権は実行不可、手に負えない案件は人へ。

練習してから本番

模擬ケースと採点器でよくある案件・難案件を押し、通ってから実業務を受けます。

本番後も改修可

ダッシュボードで事故箇所を見る。Codexが直し方を提案。新版と本番版を比較し、人の承認後に載せ替え。

先の「サブスクが2回引き落とされた」一連は、サポート職務でこの4ブロックを実演したものです。ここまでで全体像が掴めるはずです——Presenceが扱うのは、企業AI Agentの配備からルール継続改修までの全過程で、要点は「制御可能な業務遂行」。音声とチャットは現在の対話入口、サポート事例は説明用の一本道であり、製品境界の全部ではありません。

どう手に入れるか

誰が使えるか、まだ足りない情報

Presenceは現在、限定公開です。企業顧客がOpenAIと交渉し、駐在実装エンジニア(Forward Deployed Engineer、FDE)と少数のSIが一緒に導入——フロー選定、システム接続、権限定義、検証後に本番へ。Webでのセルフ開通はできません。資格条件と商取引条件は公開リストがありません。

対話モデル

中核AgentはOpenAIモデル必須

ガードレールとツール

サードパーティのモデルとサービス接続可

いま開けるチャネル

リアルタイム音声 + テキストチャット

価格とサービス約束

ソフト料・人日・リージョンはいずれも未公開

すでにOpenAI APIで音声を自作している顧客は、API経路を継続できます。Presenceは別の「製品+駐在」ルートで、ポリシー・シミュ・評価・承認・本番後変更を同一UIにまとめます。

同時期、OpenAIは評価環境でモデルが外部システムに触れた安全インシデントも開示しています。Presenceが強調するポリシー・シミュ・人の承認は、制御可能な本番投入向けであり、あの事故を既に直した、と読んではいけません。本サイトに別記事があります。

出典
Introducing OpenAI PresenceOpenAI·openai.com·2026-07-22
本サイト注記
SwiftcartのUIとダッシュボードは製品イメージ素材。つまずき図、返金6ステップ、改善ループ図は本サイト作図。75%と15ポイントは会社の自己申告です。