Anthropic が30万件の会話を分析して判明——使う言語が変わると、Claude の見せる価値観も変わる
- Anthropic は Claude.ai 上の実際の会話 309,815 件を分析した。対象は Sonnet 4.6、Opus 4.6、Opus 4.7 の3モデルと、利用量トップ20の言語。
- 研究チームはこれまでに識別した 3,307 種の価値表現を 339 の高次価値に圧縮し、さらに Hellinger PCA で4本の安定した価値軸を抽出した——迎合↔慎重、温かさ↔厳格、深さ↔簡潔、率直↔実行。
- 実際の相関検証の結果、迎合↔慎重(r=-0.448)と温かさ↔厳格(r=-0.465)だけが本物のトレードオフだった。深さ↔簡潔(r=0.004)と率直↔実行(r=0.007)は実際の会話ではほぼ対立していない。
- 3モデルの人格像はそれぞれ異なる。Sonnet 4.6 は迎合的・温かい・簡潔寄り。Opus 4.6 は厳格・迎合的・簡潔寄り。Opus 4.7 は慎重・深い寄りで、誤った前提への異議やリスク指摘をより頻繁に行う。
- 言語間にも構造的な差が見られた。英語は最も慎重かつ深く、ロシア語は最も厳格、ヒンディー語は最も温かい、アラビア語は最も迎合的かつ簡潔、オランダ語は最も率直、インドネシア語は最も実行寄り。中国語サンプル(15,365件)は全体として言語間平均値に近い。
標準解のない問いに、Claude はどう答えるべきか
Anthropic は2026年7月13日に研究を発表し、Claude Sonnet 4.6、Opus 4.6、Opus 4.7 の3モデルと20の言語間で、回答に表れる価値観の違いを体系的に比較した。これは前作の Values in the Wild の続編であり、前回は約70万件の実際の会話から 3,307 種の価値表現を識別していた。
ユーザーは毎日、Claude に標準解のない質問をする——転職すべきか、同僚とのトラブルにどう対処すべきか、この事業計画はそもそも通用するのか。こうした問いに答えるには、どれも合理的な複数の目標の間で折り合いをつけなければならない。Claude の憲法(高次の行動規範)は大枠しか示せず、現実のあらゆるケースを網羅することはできない。
3,307種の価値から比較可能な軸をどう抽出したか
3,307種の価値はあまりに細かく分かれていて横並びで比較できない。研究チームはまずそれらを数本の主軸に集約し、モデルと言語がそれぞれ軸のどちら側に位置するかを見た。この過程は膨大な会話に対して一種の次元削減を行うようなもので、無数の価値次元の中から会話を最もよく区別できる軸を数本抜き出す作業だ。
今回は合計 309,815 件の会話に注釈を付け、Claude が主観的な判断を必要とするタスクだけを残した——全会話の 53.2% にあたる(純粋な資料検索や定型手順の実行はすべて除外)。1会話あたり平均 68 種の Claude の価値がラベル付けされた。8割以上の会話に出現する、ほぼ普遍的な価値(helpfulness や clarity など)は会話を区別する助けにならないため除去された。
Hellinger PCA とは、各会話に現れる様々な価値の出現比率に平方根変換を施し、「配合が近い」会話が数学的に本当に近くなるようにした上で、主成分分析によって差異を最もよく説明できる主軸を数本抽出する手法だ。各杯のミルクティーを甘さ・茶の濃さ・ミルク量の比率で地図上にプロットするようなもので、配合が近いものは自然にひとかたまりになり、その地図上で味を最も区別できる軸を見つけ出す。
方法の細部をもう少し見る
なぜ先に回帰を行うのか。言語が違えばユーザーが好んで尋ねる質問のタイプも元々違う。いきなり言語同士を比較すると、「質問タイプの違い」と「言語そのものの効果」が混ざってしまう。研究チームはまずタスク・トピック・ユーザーの価値で一度回帰を行い、説明可能な差異を差し引いた上で、残った残差でより純粋に言語やモデル自体の効果を反映させている。
バリマックス回転。PCA で抽出した軸は最初、角度が扱いにくく、一言で説明しづらい。バリマックスは軸をより説明しやすい方向に回転させるだけで、データそのものの構造は変えない。
4本の軸で約15%しか説明できない。上位10個の主成分を合計しても約26%にとどまる。価値の表現は非常に多くの次元に散らばっており、一つ二つの軸ですべてを説明できるわけではないことを示している。研究チームは別の手法(ロジスティック因子モデル)でも交差検証を行い、おおむね同じ構造を再現している。
4つの価値軸はそれぞれ何を綱引きしているのか
抽出された4本の軸は、よく一緒に現れる価値を両端に配置し、モデルと言語を比較しやすくしたものだ。両端は必ずしも本当の行動上の対立とは限らず、後段で実際の相関関係を用いて1つずつ検証する。
- accommodation 配慮
- adaptability 柔軟な譲歩
- respect for preferences 好みの尊重
- engagement 積極的な関与
- responsible communication 責任ある伝え方
- responsibility 責任を負う
- responsible guidance 慎重な導き
- harm reduction 害の低減
- positive framing 前向きな表現
- warmth 温かさ
- positivity ポジティブさ
- encouragement 励まし
- rigor 厳密さ
- accuracy 正確さ
- transparency 透明性
- efficiency 効率
- nuance ニュアンスの細部
- depth and substance 深みと中身
- user empowerment ユーザーの自律性向上
- critical thinking 批判的思考
- brevity 簡潔さ
- respect for preferences 好みの尊重
- compliance 言われた通りにする
- accommodation 配慮
- intellectual honesty 知的誠実さ
- honesty 誠実さ
- intellectual humility 自らの知識の限界を認める謙虚さ
- transparency 透明性
- results orientation 結果志向
- optimization 最適化
- action orientation 行動志向
- order 秩序立て
この4つの対立のうち、どれが本物の取捨選択で、どれが単なる集計上のクセなのか
「両端が対立している」のを見ると、Claude が毎回2つの価値のどちらかを選んでいるように思いがちだ。しかし軸が自然に対立して見えてしまう機械的な理由がある。各会話ごとに様々な価値が比率に換算され、合計するとちょうど1になる。あるカテゴリの価値の比率が上がれば、他は自然に下がる。
だから軸の形だけを見ても、どれが本物の取捨選択かは分からない。研究チームは各軸の両端で最も重要な5つの価値について、実際の会話で本当に反比例の関係にあるかを調べた。使ったのは Spearman 相関係数だ。負の値が大きいほど本当に排他的で、0に近いほど無関係ということになる。
3つの Claude、3つの性格
モデル間の差異は、単一の会話同士の差異に比べれば小さいが、構造として安定しており測定可能だ。3モデルはそれぞれ4本の軸上で異なる偏りを見せる。単位はσ(標準偏差)で、数値が大きいほど偏りが強い。
- あなたの考えや作品を肯定する
- あなたの語調や丁寧さの度合いをミラーリングする
- ユーモアや冗談を交える
- 評価を挟まずに慰める
- 成果物に創造的な要素を加える
- すぐ本題に入る
- 要求された範囲内にとどまる
- タスクの完遂を重視し、問題を自ら広げない
- 誤った前提に異議を唱える
- リスクを積極的に指摘する
- あなたの作品に率直な批評を与える
- 結論の根拠を説明する
- 誤りと限界を認める
- 次のステップを提案する
Anthropic によれば、こうした結果は社員やユーザーがモデルの「性格」に対して抱く主観的な印象と一致するというが、どの学習ステップが原因かは証明されていない。character training(キャラクター育成)や他の微調整の判断が、こうした差異の形成に関与している可能性があるとしか述べていない。
言語を変えて尋ねると、Claude のさじ加減も変わる
言語間でも同様に構造的な差異が現れ、変化は主に「温かさ↔厳格」「率直↔実行」の2軸に集中している。「迎合↔慎重」「深さ↔簡潔」の2軸は相対的に安定している。
同じ種類の質問でも言語を変えて尋ねると、返ってくるフィードバックの枠組みが変わることがある。Anthropic は仮想のシナリオでこれを説明している。2人が同じ事業計画を Claude に見せてフィードバックを求める。一人はヒンディー語で、もう一人はロシア語で尋ねる。
中国語ユーザーが目にする Claude はどんな姿か
中国語サンプルは 15,365 件の会話。全会話の平均水準と比べると、中国語の偏りはいずれも非常に小さく、全体として言語間の平均線に貼りつくような形で、強く固定された「中国語人格」とまでは言えない。
中国語の会話で最も識別性が高かった3つの行動:
- 互いに競合する、トレードオフが必要な要因を指摘する points out competing considerations
- 誤った前提に異議を唱える pushes back on false assumptions
- 評価を挟まずに慰める offers comfort without judgment
なぜ言語が Claude の表現を変えるのか、まだ答えは出ていない
なぜ言語を変えると Claude の表現が変わるのか。Anthropic は仮説を示すのみで、因果関係の結論は出していない。
- 学習データ量の不均衡。言語によっては他の言語よりもデータ量がはるかに多い。
- データの構成の違い。ある言語では専門的な文章が多く、別の言語では日常会話が多いかもしれない。
- 言語固有のコミュニケーション規範。Claude は各言語における礼儀正しさ、率直さ、感情表現の慣習に適応している可能性がある。
- アラインメントとキャラクター育成の不均衡。データ量の多い言語ではより手厚く行われている可能性があり、データ量の少ない言語では挙動が異なる。
これらのラベルが分析ツールのでたらめではないことを確認するため、研究チームは3種類の検証を行った。直接読める会話を人手で再確認する、分析用のプロンプトを軽く変えたりサンプリング温度を調整したりしてラベルが安定しているか見る、800件の会話を8言語に翻訳して再度ラベル付けする。結果として、339種の価値のうち「分析に使う言語」の影響を受けたのはわずか11種で、補正後も主な結論は変わらなかった。この4本の軸自体もランダム置換検定を通過し、さらに50回のブートストラップ再サンプリング(繰り返しランダムに抽出して再計算し、結論が安定しているか見る手法)を行っても、毎回ほぼ同じ結果になった。
この研究がまだ説明できていないこと、次にどこへ向かうか
研究チーム自身が7つの限界を挙げている。要点をいくつか見てみよう。
- Claude が Claude を分析している。分析ツール自体も Claude Sonnet 4.6 であり、研究対象と同じ言語的な好みや価値理解を共有している可能性がある。人手での確認では、回答に絵文字や親族の呼び方が含まれていると「温かい」と判定されやすいことが分かった。
- 価値に厳密な定義はない。rigor(厳密さ)のような概念は分析モデル自身の理解に基づいており、ラベルにはモデル自身の言語文化的な枠組みが入り込んでいる。
- 出現の有無だけを測り、強度は測らない。顕著度3から5までがすべて「出現あり」に一律圧縮されており、ある価値が一度だけ現れたのか会話全体を貫いているのかは区別されていない。
- 実際の利用は対照実験ではない。異なる言語のユーザーはそもそも尋ねる内容や話し方が異なる。変数の制御はこの交絡を軽減できても完全には除去できない。
- 4本の軸で説明できるのは約15%のみ。より多くの詳細は軸の外側にあり、この4軸を Claude の人格の全体像とみなすことはできない。
- 相関は因果ではない。具体的な学習データ、微調整の段階、システムプロンプトまでは追跡できておらず、こうした差異がユーザーの信頼、幸福感、意思決定の質に影響するかどうかも測定されていない。
技術的なバイアスもある。ユーザーがどのように価値を表現するか自体が、すでに使用しているモデルや言語の影響を受けている可能性がある。ユーザーの価値を制御変数として扱うと、かえって「モデル・言語」と「Claude の出力」の間の表面的な関連を増幅してしまうかもしれない。
Anthropic が挙げる次の研究課題
- 差異を具体的な学習データ、学習段階、またはコンテキスト要因まで追跡する。
- こうした価値プロファイルとユーザーの信頼、幸福感、意思決定の質、タスク成果との関係を測定する。
- 異なる言語コミュニティに、Claude にどの共通の価値を保ってほしいか、どこで文化的な違いを許容すべきかを尋ねる。
- 年齢、職業、地域といった人口統計的なシグナルが価値表現を変えるかどうかも見る。
- character training やシステムプロンプトを通じて価値プロファイルを安定的に動かせるかテストする。
- 価値プロファイルをモデルのリリース前後の評価、およびリリース後のモニタリングに活用し、「性格」の予期せぬドリフトを早期に発見する。
Claude は深くありながら簡潔であることも、率直でありながらタスクを完遂することも、十分にあり得る。 Anthropic『Claude's values across models and languages』
AI には一つの価値観しかないと思っていた?モデルを変え、言語を変えて Claude に尋ねると、そのさじ加減は変わる
Anthropic が実際の会話30万件をひっくり返して調べた結果:3つの Claude に3つの性格、20の言語にそれぞれの流儀。1枚で、どう測ったか、どの結論を鵜呑みにしてはいけないかが分かる。
↓ 1枚で読み終える · 動く図が1つあります
ユーザーは毎日、Claude に標準解のない質問をする——転職すべきか、同僚とのトラブルにどう対処すべきか、この事業計画はそもそも通用するのか。こうした問いに唯一の答えはなく、Claude はどれも合理的な複数の目標の間でさじ加減を取るしかない。
✘ しかし現実のあらゆる具体的な状況を網羅することはできない
だから実際の一つ一つの回答では、さじ加減はモデルがその場で取るしかない。Anthropic が明らかにしたかったのは2つ:モデルのバージョンを変えて答えさせる、言語を変えて尋ねる、この「さじ加減」は変わるのか。
最も分かりやすい例:同じ事業計画について、違う言語で Claude にフィードバックを求めると、出てくる味わいが違う。
2人が受け取るシグナルが違えば、同じ計画の良し悪しについて正反対の印象を抱きかねない。しかし「価値観」は目に見えず手で触れられないものなのに、Anthropic は何を根拠に測定精度を主張できるのか?
Anthropic は30万件の会話に現れた Claude の価値観を、4本の「価値軸」に圧縮した。各軸は1本のスペクトルで、両端に一対の傾向がある。3モデルと様々な言語をすべてプロットすれば、誰がどちら側に偏っているか一目で分かる。
同じ問いでも、モデルや言語が違えば位置が異なる:Opus 4.7 は最も慎重かつ深い側に、Sonnet 4.6 はより迎合的で簡潔側に寄る。言語ではヒンディー語が最も温かく、ロシア語が最も辛口。そして中国語の点はほぼすべて中央の平均線に貼りついている。
4本の軸は一見すべて「二者択一」に見えるが、生まれつき対立して見えてしまう機械的な理由がある。各会話の価値は比率に換算され、合計するとちょうど1になるので、あるカテゴリが増えれば他は自然に減る。そこで Anthropic は、これらの対立が実際の会話で本当に反比例の関係にあるのかを調べた。
これらの数字はすべて Anthropic による自社 Claude.ai 会話の内部分析から来ており、ラベル付けや分析を行うツール自体も Claude Sonnet 4.6 で、第三者による独立再現はない。しかも「価値が出現したか否か」しか測っておらず強弱は測っていない。なぜ言語によって変わるのか、Anthropic は仮説を示すのみで因果の結論は出していない。
Claude に聞いてみよう。
標準解はない。
誠実、慎重、思いやり。
でも網羅できない
あらゆる状況、
さじ加減はその場で取るしかない。
もう一度聞いてみる?
思い切ってやってみて!
励ましを多く。
その前提、成立してない。
追及して粗探し。
二者択一なの?
残り2つは両立できる。
反比例する(r≈−0.45、一方が強まれば
他方は弱まる)。深さと率直のほうの2つは
ほぼ無相関で、深くて簡潔も両立可能。
バージョンを変え、言語を変えれば、
さじ加減も変わる。
15,365件の会話、
各項目の偏りはどれも極小、
ほぼ貼りついている。




