中国のAIモデルは米国のフロンティアに追いついたのか? 米中AIギャップの実像
- 中国のAIモデルは米国のフロンティアに追いついたのか。Epochの能力指数ECIで見る限り、答えはまだノーだ。Kimi K3は依然として4.37〜5.29ヶ月遅れており、トレンドライン上でも逆転点は見当たらない。
- だが「追いついた」という説にも根拠はある。Moonshot AIの自己申告35項目中30項目でClaude Opus 4.8に勝ち、フロントエンドコード対決では首位、GPUカーネル最適化ではClaude Fable 5と並んで最前線にいる。
- ただしこの成績はどの評価項目を選ぶかに左右される。自己申告の35項目中24項目は視覚系とagentic系で、長文コンテキストも、まともな数学も、安全性関連も一つもなく、推論のトークン効率を測る項目も一つもない。
- Artificial Analysis Indexにも同じ偏りがある。Agentsが34%、Codingが24%、合わせて58%の重みがAgentと短時間タスクのコーディングに偏っている。しかも各評価の難易度は一切考慮していない。
- Epoch AIのECIは発想が違う。試験評価の手法を借り、各ベンチマークの難易度と識別力を推定してから、モデルの能力値を逆算し同じ物差しに載せる。Anthropicも自社のシステムカードで同じ手法を使っている。
- 二つの物差しは正反対の答えを出す。AAIでは中国は1.22〜1.61ヶ月遅れで2027年11月に逆転、ECIでは4.37〜5.29ヶ月遅れでトレンドライン上に逆転点は存在しない。7つのラボのうちどこが速いかという順位もほぼ逆になる。
答えはまだノー。だが多くの人はランキングを見て「もう追いついた」と思っている
答えはまだノーだ。
だからこの分析が本当に扱っているのは、なぜ二つの答えが出るのか、そしてどちらを信じるべきかという問題だ。それを理解するには、まず「追いついた論」の事実的な根拠がどれほど固いかを見る必要がある。単なる立場の対立よりずっと固い根拠がある。
まずKimi K3の成績を見る
Kimi K3は現時点で最大のオープンウェイトモデルで、パラメータ数はDeepSeek V4のほぼ2倍、この波を巻き起こした初代GPT-4(1.8兆)をも上回る。Moonshot AIが自ら公表した35項目の評価で、Claude Opus 4.8に30項目、GPT-5.6 Solに19項目、Claude Fable 5に12項目勝っている。
第三者評価もそれなりの位置を与えている。Artificial Analysisのランキングでは、Kimi K3は57.1点でClaude Fable 5とGPT-5.6 Solに次ぐ3位につけ、GLM-5.2、Kimi K2.6、Qwen3.7-Max、DeepSeek-V4-Proといったこれまでの中国勢フラッグシップから明確に伸びている。
ウェブフロントエンドの出来を競うFrontend Code Arenaでは、Kimi K3が1679点で首位、2位のClaude Fable 5に48点差をつけている。これはランキング全体で最大の差だ。
もう一つ、見出しにはなりにくいがAI開発者にとって実用的な領域がある。GPUカーネル最適化だ。モデルの実行速度は、ハードウェアをどれだけ無駄なく使い切れるかで決まる。クロックサイクルを一つ無駄にするごとにスループットは下がり、レイテンシは上がり、最終的にコストに跳ね返る。これは本番環境だけでなく研究の場面でも重要で、新しいアーキテクチャのアイデアはすべて実験で検証しなければならず、PyTorchをそのまま動かしただけではハードウェアを使い切れないため、手書きカーネルで高速化する必要がある。
これらを並べると、「中国はすでに米国のフロンティアに追いついた」というのは、もう結論が出た判断のように見える。では冒頭の「まだノー」はどこから来るのか。この意見の相違の第一層は「能力」という言葉そのものに隠れている。
能力を分野ごとに分けると、本当に追いついたのは一つだけ
「追いついた」という3文字が同時に立証も反証もできてしまうのは、能力がもともと分野ごとに分かれているからだ。あるモデルはコーディングで相手に並びながら、同時に他の分野では何世代も遅れていることがありうる。この分析に登場した分野をひとつずつ並べると、落差がすぐに見えてくる。
コーディングという項目こそ最も目に入りやすい。公開ランキングが最も多く、誰もが日常的に使う能力でもある。一方で下の項目は専門機関が個別に測定する必要があるか、そもそも自己申告リストに入っていない。世間の「追いついた」論は、基本的に最初の行だけから育っている。
だがコーディングというこの一項目こそ、実は最も重い一項目だ
現時点で最も確度高く測定されているトレンドはまさにソフトウェアエンジニアリングにある。AIが自律的にこなせるタスクの長さは、およそ4ヶ月ごとに倍になっている。著者はこの傾向が数学など他の分野でも成立する可能性が高いと述べているが、測定が最も充実しているのはソフトウェアエンジニアリングの側だという。この「タスクの長さ」には専門用語があり、タイムホライズンと呼ばれる。
ある作業を人間がやり遂げるのにかかる時間で、かつモデルが50%の確率で完遂できる長さ、これがモデルのタイムホライズンだ。難易度の物差しとして、コード行数を数えるよりずっと信頼でき、しかも経済的価値に直接換算できる。人一人の1日分の仕事を肩代わりできることと、人一人の3ヶ月分の仕事を肩代わりできることは、まったく違う二つのことだ。
このトレンドをあと2、3年延ばせば、「人が数ヶ月から数年かけてやる仕事を、モデルが引き受けられる」という段階になる。仮にこの傾向がコーディングという一つの作業だけで成立するとしても、超人的な水準のプログラマーモデルを誰が最初に手にするかは、容易に追いつかれない戦略的地位を握ることを意味する。だからこそ、その数ヶ月の差を正確に計算する価値がある。
比較を米中間だけに絞っているのは、最良のモデル、最多のAI研究、最多の計算資源がこの二カ国に集中しているからだ。ヨーロッパは理論上は資金も人材もあるが、今のところ本気で競争に参入する構えは見せていない。
そこで問題はこうなる。分野別に見ると落差はこれほど明確なのに、なぜランキング上では「総合で追いついた」に見えてしまうのか。あと二段階掘り下げるとはっきりする。まず一段目は「差」という言葉そのもので、実はこれは方向の異なる二つの問いを同時に含んでおり、たいていの人はそのうち一方しか使っていない。
「差」という言葉は同時に二つのことを言っている
差の定義は一言で言える。あるラボが、もう一方のラボがすでに達成した能力に追いつくのにどれだけかかるか、というものだ。だがこの一言には、方向がまったく異なる二つの問いが隠れている。
- 問うのは:遅れている側の今日の水準は、先行側のどのくらい前の水準に相当するか。
- 過去のデータを見れば計算できる。すでに起きたことだからだ。
- 普段言われる「何ヶ月遅れ」は基本的にこちらを指す。
- 問うのは:遅れている側は、あとどれだけで先行側の今日の水準に手が届くか。
- 未来を予測する必要があり、計算力、人材、AI自身がもたらす加速など、多くの変数への仮定に左右される。
- 不確実性がずっと大きい。
もう一つ見落とされがちな層がある。能力は分野ごとに分かれているという点だ。あるモデルはコーディングで別のモデルに並びながら、他の分野、あるいは総合では依然として劣ることがありうる。だから「追いついた」という3文字は、どの項目が追いついたのかを必ず問わなければならない。
モデルは一世代ずつ発表され、連続した曲線は存在しない
実際に計算しようとすると、ある現実的な問題にぶつかる。進歩は離散的だということだ。モデルは数週間から数ヶ月おきにしか発表されず、二つのモデルのスコアがぴったり一致することもないため、間にどれだけの時間が挟まったかを直接測ることはできない。3つの手法にはそれぞれトレードオフがある。
著者は3つ目を選んだ。理由は対称的であり、根底にある大きなトレンドをより反映でき、差が広がっているか縮まっているかも見て取れるからだ。代償もはっきりしている。結果は回帰モデルの選び方に左右され、トレンドの断絶点をならしてしまう。この点はKimi K3にとって不利に働く。もしKimi K3が本当にトレンドの断絶点なら、回帰線はそれを元に戻してしまう。
とはいえ過去5年ほどを振り返ると、トレンドの断絶点と言えるものは1、2回しかない。2024年第3四半期の推論モデル、そして2025年11月のClaude Opus 4.5発表後にagenticモデルが立ち上がった件、これが2回目に数えられるかもしれない。いずれもモデルサイズとは無関係だった。だからDeepSeek-V4-Proの2倍にも満たない規模のモデルが、サイズだけでトレンドを断ち切るというのは、あまり説得力がない。
そこで以降の結論はすべて二組の数字を示す。近接モデル区間(現時点の瞬間的な差。図には区間内の補間値も示す)と、トレンド線推定(長期的な水準を見たもの)だ。手法が決まったところで、次は意見の相違の第二層、しかも最も重要な層に移る。どの評価項目を測るかという問題だ。
ランキングの項目をどう選ぶかが結論を決めてしまう
「35項目中30項目で勝った」という一文の重みは、その35項目がどう選ばれたかに完全に左右される。構成を分解すると、欠けている項目のほうが在る項目より雄弁だ。
- 視覚系12項目
- agentic系12項目
- コーディング系8項目
- 「推論」と知識系3項目
- 長文コンテキストは一つもない
- サイバー、生物、化学など安全関連は一つもない
- まともな数学は、MathVision・GPQA-D・HLEのみ
- 純粋な推論は、「推論」名義の3項目も実際は知識問題に少し数学が混じったもの
- 推論のトークン効率は一つもない
視覚系とagentic系を合わせると24項目、このリストの7割近くを占める。コーディング系には著者が信号の質が高いと見なすものもいくつかある。ProgramBenchやSWE-Marathonなどで、これらはタスクの範囲がより広く、時間軸もより長い。
成り立つのはこの一文だけだ。Kimi K3のコーディング能力は現在の米国フロンティアモデルと比肩する。
「Kimi K3は総合してClaude Opus 4.8やGPT-5.6 Solより強い」とは言えない。Claude Fable 5に対してはなおさらで、35項目中の大多数で負けている。
第三者ランキングにも同じ偏りがある
では第三者のArtificial Analysis Indexならどうか。今日最も広く使われている指数の一つだが、著者はこれをモデルの総合的な強さの判定に使うべきではないと考えている。理由は二つある。
一つ目は重みだ。この指数の構成は明らかにAgentと短い時間軸のコーディング課題に偏っている。
二つ目は難易度だ。各評価がどれほど難しいか、成績がどれだけの情報量を持つかを、この指数はまったく考慮しない。すべての評価は人手で決めた重みで加重平均され、誰でも簡単に通過できる評価と、ほとんどどのモデルも正解できない評価が、指数に占める割合は同じになる。
これは無用だという意味ではない。この指数の順位は日常的な使用感と一致する。測っているのが経済的に本当に役立つ作業だからだ。著者の対処法はこの指数の位置づけを変えることだった。日常的な使いやすさの指標として扱い、総合知能の指標としては扱わないというものだ。だから彼の文章では、この指数はArtificial Analysis Indexと呼ばれ、公式名にあるIntelligenceという語は外されている。では人手で重みを選ばず、しかも項目の難易度も計算に入れる物差しはないのか。ある。しかもAnthropic自身もそれを使っている。
ECIはどうやって項目の難易度をスコアに組み込むのか
Epoch AIのCapability Index(略称ECI)は、まさに上の二つの欠点を狙い撃ちしている。測りたいのはモデルの根底にある総合能力値であり、すべてのモデルを同じ物差しに載せることだ。使う手法はItem Response Theory、中国語では通常「項目反応理論」と訳される。
二人とも60点を取った。一人は小学生用の試験、もう一人はオリンピック数学の試験だとしたら、示す実力はまったく違う。二人を一緒に比較するには、まず各試験がどれだけ難しいかを知る必要がある。項目反応理論がやっているのはまさにこれだ。ある問題に正解する確率は、受験者がどれだけ強いかと、その問題がどれだけ難しいかの両方で決まる。それなら両方を一緒に推定すればいい。
評価に当てはめると、各ベンチマークについて二つのパラメータを推定する。
- このベンチマークで50点を取るには、どれだけの能力が必要か。
- このベンチマークのスコアが能力の変化にどれだけ敏感か、つまり近い水準のモデルを区別できるかどうか。
これらのパラメータを推定した後、統一的な統計モデルをフィットさせ、観測されたすべてのスコアを最もよく説明できる能力値を探し出す。この能力値がモデルのECIになる。
一つ目は人手による重み選定への依存を減らしたこと。二つ目はすべてのモデルが全ベンチマークを走らせている必要はなく、欠けている項目があっても計算できること。三つ目は各ベンチマークの難易度と識別力の両方を計算に組み込んでいることだ。
Anthropicも最近、モデルの強さを測るのに同じ手法を採用しており、自社のシステムカードではAECIと呼ばれている。彼らの図では、各ベンチマークの難易度も併せて描かれている。
そのうちの一マスを検算してみると、この手法が何をやっているかがわかる。GPQA Diamondの50点刻みは能力値129付近に位置する。つまり能力値が約129のモデルは、このベンチマークでおよそ50点取れるという意味だ。Claude 3 OpusのAECIは約126で129よりわずかに低いため、このモデルによれば50点をわずかに下回ると予測される。実測は50.4点で、予測よりわずかに高かった。
能力値が共有の物差しに乗り、人手で重みを選ぶ指数よりバイアスが少ない。これがECIの意義だ。二つの物差しが揃ったところで、同じモデル群をそれぞれの物差しに載せて測ってみよう。
二つの物差しで同じモデル群を測ると、差は3倍以上変わる
同じモデル群、同じ期間でも、物差しを変えれば米中の差の数字も方向も変わる。
まずAAIという物差しを見る
Kimi K3はこの指数で57.1点を取った。指数は0から100の間に収まるため、著者はシグモイド曲線で両国のフロンティアのトレンドをフィットさせている。
この物差しでは、中国のフロンティアは米国のフロンティアに1ヶ月余り遅れており、トレンド線をそのまま延ばせば2027年11月9日に逆転する計算になる。
ECIに変えると、同じモデル群の結論が逆転する
EpochがKimi K3の暫定スコアを出した後、そのスコアとMoonshot AIが公表した成績を合わせ、合計9項目のベンチマークで直接フィットさせると、ECIが155.53、90%区間は153.87〜158.21となった。この数字は著者自身が計算したものであり、Epoch公式が発表したECIではない。位置はGPT-5.3 CodexとGPT-5.4 Proの間にあり、前者に近い。
AAI:遅れ1.22〜1.61ヶ月、トレンド線2.89ヶ月、2027年11月9日に逆転。
ECI:遅れ4.37〜5.29ヶ月、トレンド線6.08ヶ月、交差点はnone。
後ろ向きの差は3倍以上違う。前者の物差しでは中国のほうが速く走り、後者の物差しでは米国のほうが速く走っている。
ラボ単位まで分解すると、順位はほぼ逆転する
国のフロンティアだけを見ると、個々のラボのリズムが覆い隠されてしまう。そこで両方の図についてラボ別のバージョンも作られた。両側の年間進歩速度を並べると、この評価手法の見解の相違がどれほど大きいかがわかる。
Moonshot AIは左側の首位から、右側ではOpenAIの後ろまで転落する。Anthropicは左側の5位から、右側では断トツ首位に上がる。7社のうち順位が変わらないのはGoogleだけだ。21.4と6.3、どちらも最下位のままだった。
AAIのラボ別トレンドでは、Moonshotの傾きが最も急で、2027年2月8日に米国フロンティア線を超える計算になる。原文本文の表現では「Anthropicを超える」となっている。ECIのラボ別トレンドでは、Moonshotの交差点欄も同じくnoneと書かれている。Mythos PreviewをAnthropicのデータから除いたとしても、その進歩速度は依然として年18.1点で最速だ。
ラボ別トレンド図2枚と、Kimi K3のECIがどう推定されたか
Epochのスコアが出る前、著者は一度推定を行っていた。コミュニティの予想ではKimi K3のECIは158〜159、著者本人は156〜157、分析者Teortaxesは157〜158と予想していた。
直感に頼らないために、著者はAAIとECIの高い相関を使って換算した。直線を単純に当てはめることはできない。AAIは0から100の間に収まっており、両端に近づくほどスコアが圧縮されて団子状になるのに対し、ECIには上限がなく線形だからだ。その結果、直線は非常に弱いClaude 2やClaude 3のあたりでは過大評価し、中間帯では過小評価し、強いモデルのあたりで再び過大評価してしまう。
解決法はまずAAIにロジット変換(シグモイドの逆演算)をかけ、圧縮された両端を再び引き伸ばしてからフィットすることだ。
換算による推定値は158.33、bootstrap 80%区間は154.49〜162.02。その後Epochのスコアが公開され、9項目のベンチマークを直接フィットさせた結果は155.53となり、この区間内には収まったものの換算値よりやや低かった。以降の分析ではこの155.53を用い、換算式は今後のために残されている。
Mythos Preview側も推定が必要だった。Substackコラム「Point Estimate」はECI方式で161.5、Ramez Naamは最小二乗法で161、著者自身も161、90%区間158〜166を得た。この数字はClaude Fable 5の実際のECI160(区間158〜165)に近い。著者の判断根拠は、Fable 5はMythos Previewから蒸留された小型モデルである可能性が高く、加えて追加の安全学習も施されているため、両者ともスコアをわずかに押し下げるというものだ。
前向きの差:今日の最強に追いつくにはどれだけかかるか
問いを前向きのほうに変えると、答えはこうなる。国のトレンド線に従うと、中国モデルがMythos Previewの161点に届くのは2027年3月7日、つまり約11ヶ月後だ。90%信頼帯が示す区間は2026年12月28日から2027年6月18日で、遅れの長さに換算すると8.72〜14.38ヶ月になる。
最も難しい問題では、差はさらにはっきりする
Epochが公開した暫定結果の中に、それを特によく示す項目がある。研究レベルの難易度を持つFrontierMath Tier 4の数学問題で、Kimi K3は約39点しか取れず、7ヶ月前に発表されたGPT-5.2 Pro(約45点)にも及んでいない。同じ図でClaude Fable 5は88点だ。
この計算にはまだ5つの要素が抜けている
著者自身の判断では、上の二つの差の数字はどちらも過小評価されている。なぜなら影響の大きいいくつかの事柄がまったく計算式に入っていないからだ。理由の多くは、そもそもこれらの数字が公開されていないことにある。
一つ目はモデルサイズ。Kimi K3は2.8兆パラメータだ。CursorのMichael Truellはかつて、OpusとGPTシリーズの規模がCursorが新たに発表した1.5兆モデルに近いと述べたことがあり、これはおそらくClaude Opus 4.8とGPT-5.4を指している。GPT-5.5とGPT-5.6は3兆に近いと見積もられている。つまり2.8兆のモデルがいくつかの項目で1.5兆規模のClaude Opus 4.8に勝ったとしても、アーキテクチャの観点からはあまり多くを語れない。
二つ目は推論効率。あの35項目のベンチマークにはこれを測る項目が一つもなく、著者の判断では、Kimi K3の推論効率は依然として米国モデルに劣っている。同じパラメータ規模でより多くのトークンを消費して同じスコアを得ているとすれば、そのコストはどのランキングにも計上されていない。
三つ目は実際のサービスコストと総計算力。手元に最新のBlackwellが100万枚あるのか、それともスループットの低い旧世代のHopperが並んでいるのかが、同時にいくつのインスタンスを立ち上げ、どれだけの速度でユーザーに供給できるかを決める。両国が本気で競争する局面になれば、この要素の重みはモデルのスコアに劣らない。
四つ目は安全性テストにかかる時間。米国ラボの安全性テストは中国ラボよりずっと徹底しており、この分がさらに1ヶ月ほど差に上乗せされる可能性がある。
五つ目は評価そのものの代表性。多くのベンチマークは実際の仕事上のタスクを代表しておらず、コストと時間の制約から、スコアを測定する際もモデルの最大性能を絞り出しているわけではない。
とはいえ、差が過小評価されているからといって、中国のラボが本当に加速していないわけではない。実際に速くなっている。しかもその速さは異常なほどだ。
もう一つの層:米国ラボは未発表のモデルを手元に抱えている
Mythosは10兆パラメータのモデルだという噂がある。SpaceX AI、OpenAI、Metaもそれぞれ自社の10兆級モデルを開発中だ。著者の見立てでは、今回のKimi K3の「追いついたように見える」現象は、中国モデルが前世代に追いついた一方で、米国ラボはすでに次世代に進んでおり、サイバー・生化学能力がもたらす法的な不確実性のために、最強のモデルを未発表のまま抑えているだけかもしれない。
- Kimi K3のパラメータ数は2.8兆、オープンウェイト
- Michael TruellによるCursorの1.5兆モデルがOpusおよびGPTの規模に近いという発言
- EpochはすでにKimi K3のFrontierMathなどのベンチマークスコアを公開している(ECI 155.53は著者がこれを基に算出したもので、Epoch公式の値ではない)
- Anthropicはシステムカードでモデルの強さを測る際にAECIを採用している
- Mythosが10兆パラメータであるというのは噂の域
- GPT-5.5、GPT-5.6が3兆に近いというのは推定
- Claude Fable 5.1とGPT-6はすでに訓練を終えているが未発表
- 安全性テストがさらに1ヶ月加わる可能性があるというのは著者の量的判断
- 2027年の交差点日はすべてトレンド線の外挿による
もしAnthropicとOpenAIが本当にClaude Fable 5.1とGPT-6を出してきたら、追いついたという議論自体が成立しなくなるだろう。この10兆パラメータ級のモデル群は、まったく別物だからだ。Lisan al Gaib、scaling01
中国モデルはなぜ去年8月から急に速くなったのか
中国ラボの進歩速度は確かに速くなっており、しかも起点はかなり具体的だ。著者は指数の時間に対する導関数を使ってこの転換点を探そうとしているが、これがあまり良い推定方法ではないことは本人も認めている。
これ自体が異常な現象だ。米国ラボはより多くの計算力、データ、人材を持ち、自社の研究開発を加速するためのより強力なモデルも持っている。それなのに進歩速度がむしろ遅い。著者はまず一つの技術的な説明を検証した。指数に上限があるため、米国側はすでにスコアが高く、上に伸びるのがより難しくなり、その結果遅く見えているだけではないか、というものだ。ロジット変換をかけてこの圧縮効果を除いてみても、MoonshotとZ AIのピーク速度は依然としてより高かった。
蒸留はその一因だが、すべてではない
厳密な意味での蒸留にはモデル本体を入手する必要があるが、より強いモデルを使って弱いモデルの出力を採点させることも、すでにこの部類に入る。Anthropicは何度も、蒸留攻撃を中国のラボまで追跡できたと報告している。だからこれは実在する現象だが、外部からはその規模がどれほどか、実際どれだけ役立ったかはわからない。著者の表現では、中国モデルが得た能力の中には、多かれ少なかれ蒸留に由来する部分があるという。
これ以外にもいくつかの説明があり、著者はそれらの組み合わせが実際の姿だと見ている。
- 追いかけるほうが道を切り開くより易しい。改善の方向はフロンティアがすでに示してくれている。
- AAIが測る能力は公開されて誰でも見えるうえ、強化学習で少しずつ積み上げるのに向いており、自然とスコア稼ぎの標的になる。
- 成長が最も速い2社の中国ラボだけを取り上げており、これらは賭けに成功した側であり選択バイアスがある。
- 組み入れられているモデル数が多くなく、単に運の良かった観測期間にすぎない可能性がある。
もう一つ付け加えるべき条件がある。この追い上げのストーリーはAAI上でしか成立せず、ECI上では成立しない。
逆方向の証拠:タスクが難しく長くなるほど、差が露わになる
英国AI安全研究所のサイバー演習場は現時点で最も難しい部類の評価で、タスク自体が非常に厳しく、モデルを極限まで追い込むには1億トークンを消費する必要がある。EpochのMirrorCodeはさらに極端で、1モデルあたり10億トークンを使う。
この32ステップの企業ネットワーク攻撃シミュレーションで、GLM-5.2は平均約11ステップまで進み、Claude Opus 4.5と同水準だった。一方GPT-5.6 Solは約29ステップまで進み、Anthropicの更新版Claude Mythos 5は約27ステップだった。ところが自己申告のコーディングベンチマークでは、GLM-5.2の成績はClaude Opus 4.8に近い。
同じモデルが、公開されていて対策しやすいコーディングランキングでは最新のClaude Opus 4.8に近い成績を出す一方、長い連鎖を必要とする難タスクでは7、8ヶ月前のClaude Opus 4.5水準まで後退する。この落差自体が一つのシグナルだ。
記事の最後には一つの観察が残されている。もし中国モデルが本当に米国のフロンティアと同等の強さなら、道理から言えば、これまで解けなかった数学や物理の問題をいくつか解いていてもおかしくない。今のところ、そうした例はまだ見られていない。
同じモデル群、物差しを変えると → 米中AIギャップは1ヶ月余りから5ヶ月に変わる
独立分析者Lisan al Gaibが「中国は追いついたのか」を計算可能な問いに分解。1枚で図付きの解説を読み、なぜ二つの物差しが正反対の答えを出すのかがわかる。
↓ 1枚で読み切り・動く図が1枚あります
7月16日、Moonshot AIが2.8兆パラメータのKimi K3を発表し、「中国は米国に追いついた」という声が広がった。その成績は確かに固い。自己申告の35項目中30項目でClaude Opus 4.8に勝ち、フロントエンドコード対決では1679点で首位。だがこの一文がどれだけ持ちこたえられるかは、その35項目がどう選ばれたかにかかっている。
✘ この成績が証明できないこと:総合してどれだけ遅れているか。
どの評価項目を選ぶかが結論を決めてしまうからだ。35項目中24項目は画像認識とタスク遂行の2種で、7割近くを占める。長文コンテキストは一つもなく、サイバーや生化学などの安全性関連も一つもなく、まともな数学もほぼなく、1問解くのに何字(トークン効率、つまりどれだけ計算力を使うか)消費するかも一つもない。欠けている項目のほうが在る項目より雄弁だ。
同じモデル群、同じ期間を、二つの評価体系にそれぞれ載せて測ると、出てくるのは数字が違うだけでなく方向まで逆になる。
Agents 34%+Coding 24%=58%
各項目の難易度→考慮せず
結論:遅れ1.22〜1.61ヶ月
2027-11-09に逆転
各項目の「難易度+識別力」を推定
モデルの能力値を逆算
結論:遅れ4.37〜5.29ヶ月
交差点:none
誰が加速しているかまで逆転する。AAIでは4つの中国ラボの年間進歩速度が3つの米国ラボすべてより速く、Moonshot AIが39.4で全体首位。ECIに変えると、Anthropicが25.0で断トツ首位、Moonshot AIは13.8まで落ち、OpenAIの14.3の後ろにつく。
手法は試験評価から借りたもので、項目反応理論(Item Response Theory)と呼ばれる。一言で言えば、二人がともに60点を取った、一人は小学生の試験、もう一人はオリンピック数学の試験だとすれば、示す実力はまったく違う。比較するには、まず各試験がどれだけ難しいかを知る必要がある。
「3倍違う」と言われても抽象的だが、日数に換算すると実感が湧く。同じ問い――中国のフロンティアの今日の水準は、米国のフロンティアの何日前に相当するか――に対して、二つの物差しが出す答えはこうだ。
Claude Opus 4.8に
勝った項目数
- × 長文コンテキスト
- × まともな数学
- × 安全性関連
- × 1問で何字消費するか
能力129が必要
最難関
「3倍以上違う」の出どころ