OpenAI 社長いわく、最高のプロダクトとは「プロダクトがないこと」
- OpenAI 社長の Greg Brockman がサンフランシスコの Big Technology AI サミットで単独インタビューに応じた。ChatGPT はまもなく 10 億ユーザーを突破し、同社は数兆ドル規模の評価額で上場を進め、史上最大となる 1220 億ドルのベンチャー投資ラウンドを完了した。
- 彼の核心的な主張は「インターフェースはやがて溶けて消える」というもの。将来、ユーザーは app もプロダクトも必要とせず、常に存在し続ける AGI という実体と直接対話し、目標を与えて行動させるようになる。
- Codex はコードを書くツールから汎用 Agent フレームワークへと変わり、広報や運用など非技術チームでも大量に使われ、社内浸透率はすでに Slack に迫る。
- 彼は Scaling law が今も有効だと断言する。「モデルが壁にぶつかった」と言われるたびに、調べてみれば毎回エンジニアリングの bug だった。OpenAI の計算資源戦略は「全部買う」で、チップの自社開発も何年も続けている。
- OpenAI は複数のハードウェアを開発中で、エンドツーエンドの双方向音声モデルも手がけている。狙いは「交互に話す」やり取りをなくし、人間のようにいつでも割り込める会話を実現すること。
11 年後、OpenAI は今どれほど大きいのか
OpenAI 社長兼共同創業者の Greg Brockman が先日、サンフランシスコの Big Technology AI サミット(Commonwealth Club)で、大トリとして Alex Kantrowitz の単独インタビューに応じた。二人の対談はこれで 4 回目。話題は Agent の時代、インターフェースのかたち、計算資源の競争、そしてプロダクトのロードマップに及んだ。
2015 年、彼は Elon Musk、Sam Altman とともに AGI を追い求めて OpenAI を立ち上げた。11 年後の今日、この会社はおそらく今後 1 年以内に数兆ドルの評価額で上場する。このインタビューが重い意味を持つのは、語っているのがまさにこの規模の頂点に立つ人物であり、これからプロダクトをどう作っていくかを語っているからだ。
なぜ見る価値があるか:OpenAI 社長が複数のハードウェアを開発中だと初めて公に認めた回だ。Codex Agent は社内ですでに Slack 並みの浸透率に達し、コンテキストウィンドウは 2022 年の 2K token から今日の 500 万〜1200 万 token まで広がった。毎週 2.3 億人が ChatGPT で健康の悩みを調べている。
彼は言う、最高のプロダクトとはプロダクトがないこと
司会者がある見方を述べた。OpenAI は Codex、ブラウザ、ChatGPT を一つの「super app」に統合しつつあり、どんなことも一つの prompt から始まり、あとは技術があなたのブラウザやパソコンを動かして用事を片づける、というものだ。Brockman はこの視点に同意しつつ、もっと遠くにレンズを向けようとする。
彼が本当に作りたいのは AGI だと言う。2022 年の公開当時、ChatGPT には記憶もなく、どんなツールにもつながっておらず、コンテキストもなかった。こうした対話型の知能は、人が仕事をやり遂げるのに必要なもののほんの一部にすぎない。OpenAI が向かうのは、本当にあなたのことを考えてくれる AI だ。目標を与えれば「今日あなたのために何ができるか」を考え続け、超難問も雑用もこなす。目が覚めると受信トレイが整理され、医療の方針を整理して何度もやり取りすることまで手伝ってくれる。
彼の結論はこうだ。あなたはほとんど「インターフェース」も「プロダクト」も欲しくない。欲しいのは、人と人とのように、常に存在し続ける実体と話し、目標の達成を手伝わせることだ。長期的な方向はシンプル化と統一であり、ボタンを押す、スイッチを切り替える、モードを変える、といった操作をシステム全体から減らしていく。インターフェースは少しずつ「溶けて消えていく」。
彼は機械と人の関係についても一言触れた。AI のすばらしさは、機械を人の側へ引き寄せる点にある。ファイルやフォルダのような、機械の動作にしか関係せず人間には不自然な細部に、人を合わせさせるのではなく、だ。
信じられない?Codex は社内ですでにそうなっている
「インターフェースの消滅」は遠い未来の話に聞こえるが、Brockman はもう現在進行形だと言う。Codex は名前に code が入っているものの、実はコードとはあまり関係ない。本質は汎用的で、ツールを使える実行フレームワーク、つまり Agent だ。Slack や Gmail、カレンダーにつなぐことができ、OpenAI 社内では多くの非技術系の社員がすでに使っている。
広報チームの同僚がイベントを準備していて、Codex に出席者全員の食事の好みを一人ずつ尋ねさせ、座席表を丸ごと自動で組ませた。こうした雑務をすべて片づけてくれたので、彼女は本当に力を入れたい部分だけに集中できた。
Codex は当初ソフトウェアエンジニアリングに絞っていたが、非ソフトウェア分野の利用が爆発的に伸び、OpenAI 社内ではほぼ Slack と同じ浸透率に達した。全社が Slack で回り、メールはほとんど使わない。今や Codex も同じような存在になりつつある。
司会者はこれを、OpenAI が一つの「OS」になった、と表現した。だが Brockman はその枠を受け取らない。OS はほとんど別の時代の概念で、技術スタックの一つの層にすぎない、と彼は言う。彼が考えているのは「AGI へ至る理想のインターフェースとは何か」であり、ある種の「パーソナル AGI」と呼べるものだ。その Agent は自分のパソコンと自分のアクセス権を持ち、理想の同僚のように、あなたのパソコンで作業し、あなたから委ねられたシステムへのアクセス権をいくらか持つ。これは、アシスタントと信頼の境界を築きながら一緒に働くのと本質的に変わらない。
旧来の「AI アシスタント」がまるで使えなかった理由
OpenAI が ChatGPT で初めてツール呼び出しを試したのは、2023 年 3〜4 月に公開したプラグインだった。Brockman の評価は「まるで使えなかった」。だが原因は発想が間違っていたからではなく、土台となる条件が整っておらず、モデルがまだ準備できていなかったからだという。言い換えれば、機が熟したのは AI が急に賢くなったからではなく、土台の条件が変わったからだ。
- 一度にモデルへ見せられるコネクターは 3 個まで。それ以上だと忘れ始める
- コンテキストは 2K、多くて 4K token しかなく、ほぼ記憶がない
- ツールを使うとすぐ忘れる。60〜70 年代の、ごく小さなメモリしかない初期のコンピューターのよう
- モデルに数百のツールを同時に使わせ、ファイルシステム全体につなげる
- コンテキストは 500 万〜1200 万 token に達し、ほぼインターネット全体が指先にある
- ブラウザやパソコン全体を操作でき、未解決の数学・物理の難問にも取り組み始めている
コンテキストウィンドウとは、AI が一度に「覚えて」同時に処理できる文字の量で、作業机の大きさにあたる。机が大きいほど同時に広げられる資料が増え、マルチタスクがはかどる。2022 年の机は A4 用紙 1 枚、今日は部屋まるごとだ。
彼はさらに、もっと早い時期の失敗も引き合いに出した。OpenAI はかつて ChatGPT で Uber を呼べる機能を作ったことがあり、多くの会社がチャットの中で行動を起こさせようと試みたが、本当に火がついたことは一度もなかった。違いは、今のチャットボットがあなたのブラウザやパソコンを直接引き受けられる点にある。あるプラグインが使えるかどうかを気にする必要はもうない。ボットはあなたのマシンを引き受けることで用事を片づける。
どれだけの信頼を AI に委ねるか。これこそ本当のプロダクト設計
Brockman が繰り返し強調する言葉がある。信頼だ。Agent 時代の核心的な違いは技術ではなく、信頼の境界、つまり AI にどれだけの自律性を許すかにある。信頼は「勝ち取る」もので、直接与えられるものではない、と彼は言う。その方法は、操作する人に大量のツールとコントロール権、監督と規制を与えることであり、これが重要なプロダクトの特性だ。彼は 1 通のメールを例に 3 段階の自律度を挙げた。自分で切り替えて試してみてほしい。
「送ってもいいですか?」
AI は Gmail コネクターで受信トレイから関係者を探し出し、メールの下書きを用意したうえで、いったん止まってあなたの許可を求める。最も安全なやり方だ。すべての行動の前に一度あなたに尋ね、最終的なコントロール権はすべてあなたが握る。
「下書きしました、送信はご自身で。」
コネクターの設定上そもそも送信が許されていないため、AI は下書きまでしか担当せず、送信はあなたに戻す。権限がプロダクトのレベルで固定されていて、その場の判断に頼らない場面に向く。
「下書きして、もう送信しました。」
あなたがシステムと十分な信頼を築けば、AI は一連の作業をすべて片づけてから報告する。自律性は最も高いが、その前提として、この信頼を過去の実績で勝ち取っていることが必要だ。
同じ AI、同じメールでも、信頼レベルが違えばプロダクトの形はまったく変わる。この「操作する人に十分な監督と規制を与える」ことこそ Agent プロダクトの核心的な違いだ、と Brockman は言う。信頼の境界をうまく設計できた者だけが、本当に使える Agent を手にする。
80 年見えない天井。Scaling law とは何か
数年前、ある説が流行した。大規模言語モデルはもうすぐ壁にぶつかる、というものだ。Brockman はそれは間違いだと言う。彼の答えは 2 つに分かれる。第一は基礎科学だ。Scaling law は今も有効で、これは彼が知るなかで最も不思議で、最も重要な経験的観察の一つだという。「思ったように scale しない」ことが起きるたびに、調べてみれば自分の側に bug があるか、数学か実装が間違っているのであって、本当に天井にぶつかったわけではなかった。
ニューラルネットワークにより多くの計算資源、より多くのデータ、より良いアーキテクチャを与えれば、それだけ賢くなる。工場の増産と同じだ。生産ラインが多く、機械が先進的なほど産出は増える。「これ以上つぎ込んでも無駄」という天井は今まで見たことがない。この法則はおよそ 80 年にわたって観察されてきた。
彼は自分でも調べたと言う。ニューラルネットワークは 1940 年代にはすでに考案されていた。当時まだコンピューターはなく、脳が情報を処理するモデルとして提唱されたものだ。最初のハードウェア実装は 1959 年のパーセプトロン。この分野の節目となる成果は、より多くの計算資源がつぎ込まれるという、きわめて滑らかで確実な道筋をたどってきた。
つまり基礎の部分は許している。難しいのはエンジニアリングだ。こうした巨大なスーパーコンピューターを作るのは高くつき、難しい。ネットワークプロトコルを自社開発し、技術スタックの各層を隅々まで理解できる人材も要る。ニューラルネットワークには抽象層がなく、どんな小さな部分でも一つ間違えれば連鎖反応を起こし、最後にまったく別のところで表に出てくるからだ。適切なチームを揃え、ミッションを目の前に据えて黙々とやり抜けば、その結果は到達できる。
計算資源を「全部買う」、その裏にあるロジック
司会者は数か月前、Brockman にどれだけ計算資源を買うべきか尋ねたときのことを思い出す。彼の答えは「全部」だった。「いや、本気で」と返しても、やはり「全部」。無謀な賭けに聞こえるが、本人はこれは基礎的な判断だと言う。第一の支点はこうだ。計算資源は本物の希少資源であり、世界にはすべての需要を満たすだけの計算資源がそもそも存在しない。私たちは計算資源が動かす経済へ向かっている。
彼が示す最も直感的な証拠は、ユーザー規模のあいだにある巨大な空白だ。
今 Agent を使う人はおよそ 1000 万〜2000 万人にすぎず、まだ世界規模には達していない。ChatGPT はおよそ 10 億ユーザーだが、Agent の能力はまだその規模に届いておらず、利用の深さも、行き着くべき場所に比べればごく小さい。このあいだの約 50 倍の差こそ、まだ届いていない市場であり、Agent の大規模な普及がまだごく初期だということを示している。
第二の支点は直感に反する。Wall Street Journal は OpenAI が近く出すモデルが大幅に値下げされるかもしれないと報じたが、Brockman は値下げが需要を縮めることはなく、むしろ Jevons のパラドックスのように需要があふれ出てくると言う。最前線の知能は常に最も高価だが、1 年後には今日のこの水準がかなり当たり前で手軽なものに見え、同時にもっと良い新しいものが現れて、古いほうはもう使いたくなくなる。
ある資源の利用効率が上がると、需要は減るどころか急増する。コストが下がることで、より多くの人、より多くの場面で使えるようになるからだ。電気代が下がれば、人はかえって家電をもっと買う。石油の採掘効率が上がれば、世界の石油消費はかえって増える。AI の値下げも同じロジックだ。
↻ フライホイールが回り出す。だから値下げするほど「全部買う」
開いて読む:H100 の価格逆転と自社開発チップ
Satya Nadella の「モデルはコモディティ化しつつある」という見方に対し、Brockman は反論する。技術スタックのどの層も取り除かれることはなく、これらの層は掛け算で積み重なる、と。最下層の計算資源の価値は、みなが H100 に出そうとする値段から見て取れる。Hopper は一世代前のチップで、本来なら誰も買わないはずだが、今はむしろ市場価格が相対的に上がり、逆転が起きている。誰もが雪崩のような需要に直面しているからだ。
彼はさらに、OpenAI の自社チップのプロジェクトはすでに何年もかけて取り組んでおり、進展はわくわくするほどで、近くもっと多くの発表があると言う。サプライチェーンを完全に垂直統合できるのはとても独特だ。同時に彼は顧客側の変化にも気づいている。かつてはみな「早く AI を取り入れて遅れないようにしたい」と考えていたが、今では「これは本当に ROI をもたらすのか」と問い始めた。そこで OpenAI はその日のうちにコスト管理機能を公開した。
最後に語ったのは医療。これは彼の最も個人的な答えだ
インタビューのなかで Brockman は健康に何度も触れ、最後もそれで締めくくった。AI を医学に使うことが、OpenAI のすべてを築く彼個人の原動力だと言う。これはビジョンではなく、目の前で実際に起きていることだ。
彼の友人で GitLab の CEO である Sid Sijbrandij はがんにかかり、できるかぎりの診断検査をすべて終えたあと、データを ChatGPT に入れ、さらに何人かが専用のアプリを組んでくれて、最終的にがんをある程度まで抑え込んだ。オーストラリアには Rosie という名の犬もいる。飼い主はがんになった犬の生検を行い、変異の情報を AlphaFold にかけ、チャットボットの助けを借りて一種の mRNA ワクチンを設計して注射した。最後には腫瘍が小さくなり、その犬はまたテーブルを飛び越えられるようになった。
Brockman は、これは例外ではなく必ず標準になると言う。彼は、これまで患者は力を与えられず、自分で医者の役を担わされてきたと指摘する。決断し、責任を負うのはあなただ。医者がミスをしても、その代償を払うのはあなたの残りの人生であり、これはまったく異なるインセンティブの仕組みだ。この件は彼にとっても個人的なものだ。妻にはいくつもの健康上の問題があり、もし ChatGPT がなかったら、彼女の多くの状態に今どう対処すればいいのか見当もつかない、と彼は言う。
彼が挙げた根拠のなかには、その日 OpenAI が発表した進展もある。査読付きの文献で、医師が O3(OpenAI 最初期の推論モデルの一つ)を使い、何年も医者から答えをもらえなかった人々に診断をつけた、というものだ。そのうちの一例は、ある人が 20 年かけても突き止められなかった謎の症状がついに確定診断されたケースだった。医療が経済のきわめて大きな部分を占め、医師や看護師の過労が現実の危機であることを踏まえ、もし AI が健康問題の発生前に予防を手伝えれば、大きな負担を軽くできると彼は言う。
もし ChatGPT がなかったら、妻の多くの状態に今どう対処すればいいのか見当もつかない。パーソナライズド医療は今この瞬間、目の前で起きている。理論ではない。 Greg Brockman · Big Technology AI サミット